“The Number of the Beast” (1982)
実はアイアン・メイデンは中学3年生のときにほぼリアル・タイムで、1st『鋼鉄の処女』と2nd『キラーズ』を聴いているのだ。
先日、ヴァン・ヘイレンの『炎の導火線』の記事で、中三の夏休みに高校への進学を早々とあきらめたバカ二人の、わたしじゃない方のもうひとりのバカがヘヴィメタにハマっていたと書いたが、そのバカが中でもいちばんハマっていたのがこのアイアン・メイデンだった。
われわれは、同級生たちが必死になって受験勉強に勤しむ姿を横目に、世界から取り残されたように暇を持て余していた。実のところ音楽の趣味は合わなかったのだが、バカ同士だからか少しだけ気が合った。わたしは彼と中三の夏休みを一緒に過ごし、彼の家でヘヴィメタのレコードを一緒に聴いたり、カセットテープにダビングしたものをもらって聴いたりしていたものだった。
でもいくら聴いてみてもわたしは結局ヘヴィメタにハマることはなかった。それどころか、彼のせいでヘヴィメタはバカが聴くものという偏見に取り憑かれたまま、その界隈を避けて生きてきたものだ。
なので今回あらためて、アイアン・メイデンの1stと2ndを40年ぶりぐらいに聴いてみた。やはりほとんど憶えていなかったが。
さらに今回はその次の3rdアルバム『魔力の刻印』(1982) を初めて聴いてみた。このアルバムからヴォーカルがブルース・ディッキンソンに替わったが、アイアン・メイデンの最高傑作に挙げる人も多い、彼らの代表作だ。初の全英1位を獲得した大ヒット作でもある。
最初に聴いた印象では、まだヘヴィメタルになりきっていないような1stの方が聴きやすく感じた。しかし繰り返し聴くうち、本作のスピード感と攻撃的な演奏のキレ味、複雑な楽曲のめくるめく展開や、全体に通底する凛とした重厚感など、その圧倒されるような完成度はやはりヘヴィメタル界の聖典と言われるだけのことはあるなと思った。
シングルカットされた「誇り高き戦い Run To The Hills」の意外なポップさが真っ先に耳に残ったが、繰り返し聴くうちに、タイトル曲の「魔力の刻印 」や、劇的に展開する大作「審判の日 Hallowed Be Thy Name」にも耳を惹かれるものを感じた。
しかし、ヘヴィメタルを聴き慣れていないわたしには正直まだまだよくわからないというのが本当のところだ。
しかし本作の、知性や気品を感じるドラマチックな芸術性の高さに、少なくとも40年前に端を発する「ヘヴィメタはバカが聴くもの」という根深い偏見は、間違いなく払拭された。
(Goro)