はじめてのニール・ヤング 名曲10選 10 Neil Young Songs to Listen to First

Greatest Hits

ニール・ヤングは1966年にバッファロー・スプリングフィールドのギタリストとしてデビューして以来、もう52年もアーティストとしてのキャリアを重ねている。

ちょうど昨年、ソロになってから50枚目のアルバムを発表したところだ。

さすがに入門者は、なにから聴いていいかわからないだろう。

ニール・ヤングには、ノスタルジックで美しいアコースティック系の曲から、火花のようなノイズをまき散らす激しいロックまで幅広い楽曲があり、ロック好きならその両方の代表曲を気に入ってもらえると思うが、好みに応じて、そのどちらかだけ聴くというのもアリかもしれない。

ここでは前半にアコースティック系の名曲を、後半にロック系の名曲を配置してみた。

毎日ぐったりするまで働いて、いつ死んでもおかしくないという人はぜひ癒しの1曲目から、いやいやとにかく爆音のロックが聴きたいんだという人はいきなり6曲目の「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」からスタートしても構わないと思います。

#1 アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ(1970)
After The Gold Rush

ニール・ヤングの3rdアルバム『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』のタイトル曲。

このアルバムが彼の最高傑作なのはもちろんのこと、わたしにとってはセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』と並ぶ、70年代最高のロック・アルバムだ。


1960年代は、ロックが世界中の若者を夢中にさせ、ヒッピーやドラッグ文化、ベトナム戦争や学生運動、ケネディ大統領の暗殺など、世代間に断絶が生まれ、社会が大きく揺れた激動の時代だった。
ひとつの時代の終わりと、新たな70年代の幕開けにふさわしい、ニール・ヤングの曲の中でももっとも美しい曲だ。


宇宙開発や大量破壊兵器など、科学文明が急激な勢いで発展してきた時代に対し、この歌は「見ろよ、母なる自然が逃げ出していく」と、アンチテーゼを歌う。
手放しで文明の進歩を讃え、夢中になって推し進めてきた先進国の民が、ようやくこの道が招きかねない悲劇的な未来の可能性に気づき、立ち止まって考え始めた時代だった。

#2 オンリー・ラヴ(1970)
Only Love Can Break Your Heart

『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』からシングルカットされた曲で、ニール・ヤングにとっての初めてシングル・ヒットとなった曲だ。
アコースティックサウンドが心地よい、一度聴いたら忘れられない美しいメロディの曲だ。
この曲は当時、CSN&Yのメンバーだったグラハム・ナッシュのために書かれたという。
グラハム・ナッシュは恋人のジョニ・ミッチェルとの関係がうまくいかなくなっていたのだ。

#3 孤独の旅路(1972)
Heart Of Gold

1972年にカントリー・ミュージックの聖地、テネシー州ナッシュヴィルで制作された名盤『ハーヴェスト』の収録曲。
シングルとしても全米No.1になった、ニール・ヤング最大のヒット曲だ。
日本でも売れて、ニール・ヤングと言えばこの曲、ということになった。

この『ハーヴェスト』というアルバムときたら、おいおいこれ大丈夫なのか、と思うぐらい異様に低いテンションの、か細いニールの声で始まる。
そして必要最小限の音とシンプル極まりないメロディーしかないのに、聴き進めるうちにその抗いがたい魅力にいつのまにかハマってしまう。

わたしはこんなシンプルな曲こそがほんとうに美しい、それこそ黄金のように光を放つ音楽だと思っているのだ。

#4 ヘルプレス(1970)
Helpless

この曲もニール・ヤングの代表曲のひとつだが、彼が一時期メンバーだった、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングのアルバム『デジャ・ヴ』に収録された曲だ。
なんだかもう止まりそうなぐらい遅い、ニールの、力が抜けきって宙にへろへろと漂うようなか細い歌声が衝撃的な曲だ。
レコーディングでは、深夜まで何度も繰り返して演奏させてメンバーを疲れさせ、余計なことをせずただゆっくりと演奏するようになるまで粘ってこのテイクを完成させたという。
たしかにもう、全員死にそうな感じだ。
曲はシンプルそのもの、DとAとGのコードを繰り返しているだけなのに、1度聴いたら忘れられない美しさだ。

#5 シナモン・ガール(1969)
 Cinnamon Girl

90年代のグランジ・ブームの頃、「グランジの旧約聖書」とも呼ばれていた、69年のアルバム『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』のオープニング・トラック。

このアルバムはとにかく、ニールがあの「オールド・ブラック」と呼ばれるギター(1953年型ギブソン・レスポール)を手に入れ、初めてクレイジー・ホースと競演したアルバムだ。

全体的に弾きすぎかもしれないが、まだ誰もやっていない新しいサウンドの発見がよほど嬉しかったのかもしれない。

#6 カウガール・イン・ザ・サンド(1969)
Cowgirl in the Sand

69年のアルバム『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』収録曲。

制作中にインフルエンザに罹り高熱を出しながらもなぜか次々に曲が生まれたという、文字通りの熱狂状態で作られた、最高傑作のひとつである。

クレイジー・ホースのダニー・ウィットンとニールによる長い長いギターソロは、ニール・ヤングのギター・スタイルを確立したかのような名演だ。

#7 ヘイ・ヘイ、マイ・マイ(イントゥ・ザ・ブラック) (1979)
Hey Hey, My My (Into the Black)

初めてニール・ヤングを聴く人は、前半のアコースティック系の名曲の美しさと、この「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」の気が触れたように歪んだ不穏なロックの、あまりの振幅の激しさに戸惑うかもしれない。
でも、ニール・ヤングとはそういうアーティストなのだ。

この曲は、ロックについて歌った歌だ。

極限にまで歪ませたギターは、ロックが誕生して以来若者たちを魅了してきた、破壊的かつ破滅的なパワーの剥きだしの生々しい正体のようだ。
ロックの持つポジティヴなパワーとダークサイドの両方をリアルに表現した、ロック誕生以来の、最重要曲のひとつである。

ニルヴァーナのカート・コバーンの遺書に書かれた「It’s better to burn out ‘cause rust never sleeps(錆びるより燃え尽きたほうがいい)」はこの曲の歌詞から取られている。

#8 ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド (1989)
Rockin’ in The Free World

ロック好きならこの曲を聴いてなにも感じないなんてことはありえないだろう。
この曲はニール・ヤングの最高傑作のひとつだ。

89年のアルバム『フリーダム』に収められているが、アルバムの最初にこの曲のアコースティック・バージョンが、最後にロック・バージョンが収められている。
アメリカの影の部分も真っ直ぐ見つめ、やりきれない哀しみや怒りに駆られながらも、ロックンロールに象徴される光と希望だけは決して失なわずにいようと、強い意志のようなものが漲る、魂が震えるナンバーだ。
ロック・バージョンは、テンションMAXのニールのヴォーカルと、バンドのスピード感が凄い。

#9 ライク・ア・ハリケーン(1977)
Like a Hurricane

10作目のアルバム『アメリカン・スターズン・バーズ』の収録曲。

この曲も一度聴いたら忘れられない美しいメロディが印象的だが、それよりもライヴではとにかくニールがメッメタにギターを弾きまくる曲として人気が高いナンバーだ。
わたしはこれを最初に聴いたときには度肝を抜かれた。
わたしの知っているいわゆるハード・ロックなどの「ギターソロ」というものとは明らかに違う、全然テクニックなんかないし、速弾きでもないし、音もキッタナいのに、こんなに心にグッとくるギターソロというものがあるのかと感動したのだ。まさに魂のギターソロだ。

わたしが観た唯一のニール・ヤングのライヴ、フジロック2001では、この曲を25分間に渡って演奏した。

#10 パウダーフィンガー(1979)
Powderfinger

最後はやっぱりこの曲。わたしがいちばん好きな曲だ。
「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」と同じ『ラスト・ネヴァー・スリープス』収録曲で、そのシンプルだけど感動的なメロディと、グッとくるギターソロは、いちばんニール・ヤングらしい曲だとわたしは思っている。
「パウダーフィンガー」のギターソロはライヴで演奏するたびに毎回違ったフレーズを弾くのが楽しみでもある。
豪快だが一見たどたどしくも聴こえるニールのギターソロは、歌うようなメロディが聴こえてきたり、喜怒哀楽がそのまま音になってのたうつような、唯一無比のギタリストでもある。

おめでとう!

ここまでたどり着いたらもう立派なニール・ヤングのファンですね。

幸いにも彼のアルバムは50枚もありますので、死ぬまで退屈することはないでしょう。

まずはロック史に残る名盤、『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース』から手をつけていただいて、アコースティックサウンドを聴きたい方は『ハーヴェスト』へ、グランジサウンドが気に入った方は『傷だらけの栄光』あたりがお薦めです。

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