Neil Young & Crazy Horse – Country Home
80年代はレーベルと対立し、作風も迷走を極めたニール・ヤングだったが、古巣のリプリーズ・レコードに戻ると89年に「ロッキン・イン・ザ・フリー・ワールド」を発表し、再び覚醒すると、1990年、クレイジー・ホースとの『傷だらけの栄光(Ragged Glory)』で完全復活を果たした。
この『傷だらけの栄光』は、ニールの全アルバムの中で3本の指に入る名盤だとわたしは思っている。
そして翌年のニルヴァーナの大ブレイクによって、歪んだ轟音ギターにシンプルな歌メロのパワフルなギター・ロックは、「グランジ(薄汚いの意)」と呼ばれてムーヴメントを起こすが、その幕開けはニール・ヤングのこのアルバムだった。
ニールとクレイジー・ホースにとっては、1969年の『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース(Everybody Knows This Is Nowhere)』以来、より激しさを増した以外はほとんど変わらないスタイルだったが、『傷だらけの栄光』はダイナソーJrやソニック・ユースなどの若いバンドたちが絶賛し、ニール・ヤングは当時“グランジ・オブ・ゴッドファーザー”などと呼ばれたものだった。
「グランジ」という言葉は当時、音楽のことだけでなく、そのファッションのことも指した。
ロックスターらしくない、ダメージ・ジーンズにスニーカー、そしてTシャツにネルシャツという飾り気のないファッションを指したが、それこそまさに1969年以来、ニール・ヤングとクレイジー・ホースの30年以上も変わらないファッションそのものでもあった。
この「カントリー・ホーム」は、その『傷だらけの栄光』のオープニングを飾る曲だ。
思わず口づさんでしまうシンプルなメロディと、指先から血が飛び散りそうなギターソロ、暗い雲が過ぎ去った後に射し込む陽光のような明るい曲想、一発録りのリアルで生き生きとした、自由で豪快なロックだ。
このアルバムは全編この調子で、そしてそのすべてが名曲だ。
当時、わたしが探し求めていたロックを、ここに見つけた気がした。
このときがわたしの「好きなアーティスト・ランキング」の玉座にニール・ヤングが就いた瞬間だった。
こりゃ、90年代のロック・シーンは面白くなりそうだなあ、とワクワクしたことをハッキリと憶えている。