名盤100選 05 ニール・ヤング『ラスト・ネヴァー・スリープス』1979

ラスト・ネヴァー・スリープス

このブログはあと95回続くが、これほど悩むことは二度とないだろう。
ニール・ヤングでこのベスト100入りに値するアルバムを4枚に絞り込んだが、どれもこれも甲乙つけがたく、ここから1枚だけ選ぶのは苦渋の選択ですらあった。
まるで母親が5人の我が子からひとりだけ残してあとの4人を谷底へ突き落すようなもの…いやそんなわけはないな。そこまでではない。

まずは1969年の『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジーホース』。
このアルバムには「シナモン・ガール」「ダウン・バイ・ザ・リバー」「カウガール・イン・ザ・サンド」などの初期の代表曲がまとめて収録されている。
このアルバムは画期的であった。
この時代にこんな歪んだエレキギターの音だけでアルバムを1枚作ったアーティストは他にいない。
20年後にやっとこのアルバムがリスペクトされる時が来るのだが、それが90年代のグランジ・ブームだ。
言わばグランジの旧約聖書である。

2番目は、もうどんな『名盤カタログ』にも必ず登場する70年の『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』である。
これは前作と違ってアコースティック主体のアルバムだ。
とにかくこのアルバムはこの上なく美しい。
60年代の闘争も祝祭もなにもかもが終わって無人となった荒地のような虚無感に覆われているが、同時に、地に足のついた新しい生活が始まる期待感のような光が射しているアルバムのようにわたしは感じる。
そしてビートルズの解散や数々のロック・アーティストの死によってロックンロール・バンドの時代が終わり、70年代に始まるシンガー・ソング・ライターたちの時代の幕開けとなったアルバムでもある。
誰もがこれをニール・ヤングの最高傑作に挙げることに異論はない。

90年のクレイジー・ホースとの共演盤『傷だらけの栄光』はまるで69年の『ニール・ヤング・ウィズ・クレイジーホース』のに戻ったかのようだ。20年ぶりの本家グランジ・サウンドの復活であった。
しかも内容もこちらのほうがもっと充実している。
90年にこのアルバムとソニック・ユースの名盤『GOO』が発表され、このあたりが先鞭となって翌年ニルヴァーナやダイナソーJr、スマッシング・パンプキンズがブレイクしてグランジブームとなる。
このアルバムをひっさげて行われたツアーは『ウェルド』という轟音系のライヴ・アルバムにもなった。
『ウェルド』は演奏は荒っぽいが、強烈である。
音として成立するかどうかギリギリのところで音楽になっているリアルな轟音の美しい結晶である。わたしはこのアルバムも大好きだ。

しかしなにしろ1アーティスト1枚にしないとキリがないので、残念ながら上記の3枚をあきらめざるをえない。
わたしが大いに迷って泣きながら選んだのは1979年の『ラスト・ネヴァー・スリープス』だ。
このアルバムは77年にはからずも同時に起こったエルヴィスの死とパンク・ロックの隆盛についての彼なりの回答と言える。
このアルバムに出会ったときから、わたしはニール・ヤングに夢中になった。

このアルバムはLPのA面がアコースティックの弾き語り、B面がクレイジー・ホースとの爆音ロックという構成になっている。
「マイ・マイ、ヘイ・ヘイ」で始まる弾き語りのアコギは、後にも先にも聴いたことがないぐらい素晴らしく美しく、力強い音がする。
ファンタジックで詩的な「スラッシャー」も何年聴き続けていても飽きない。わたしは訳詞を読んだりしないのでなにを歌っているのか知らないが、無意識に聴こえてくる単語を組み立てて勝手な情景やあらすじを作って聴いている。この「スラッシャー」などはわたしの中ではいつのまにかSF風の物語になっていたりするのだ。

B面はわたしがもっとも愛するナンバー「パウダーフィンガー」で始まる。わたしはこの曲のニールのギターソロを愛してやまない。
このメロディアスで天国的なギターソロは年を経るごとにどんどん変わっていく。
このオリジナル・バージョンよりも、その次の『ライヴ・ラスト』のほうがぐっと良くなるし、さらに『ウェルド』のバージョンはもっと好きだ。

アルバムの最後は、ロック史上最も歪んだギターに乗せて「王様は死んだがロックンロールは決して死なない」と歌う「ヘイ・ヘイ、マイ・マイ」で締めくくられる。
しかしこの歌は決して純真で熱狂的なロックンロール賛歌ではない。
ロックンロールの暗黒と深淵を覗きこみ綱渡りで生きてきた立場からの深い思索による鎮魂と希望はあくまでも詩的であり、静かな狂気を秘めたサウンドはあくまでもクールである。
極限にまで歪ませたギターは、ロックンロールが誕生して以来若者たちを魅了してきた、破壊的かつ破滅的なパワーの剥きだしの生々しい正体のようだ。
わたしもまたこの生々しい、なにかよくわからないが抗いがたいクールなこのなんとやらに、死ぬまで魅了され続けるだろう。

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