カレン・カーペンターはポップス史上最高の女性ヴォーカリストのひとりだとわたしは思う。
よく伸びる高音を武器にする女性ヴォーカリストは多いが、カレンーはその低音の美しさに比類が無い。そのうえ天才的なリズム感も感じさせ、いつ聴いてもその声の生々しい魅力に鳥肌が立つような感覚を覚える。
兄のリチャード・カーペンターは作曲家としても素晴らしい才能を発揮したが、妹カレンの声を引き立たせた編曲でもまた最高の仕事をしている。カレンも天才だが、それに劣らぬほど、兄リチャードもまた天才だったのだ。
1969年にカーペンターズはレコードデビューして数々のヒット曲を世に送り出した。日本でも洋楽アーティストとしては別格的な人気を誇った。
当時、日本で最も多くアルバムを売った洋楽アーティストはビートルズで、カーペンターズはそれに次いで2位だった。そしてシングル盤はビートルズを超え、カーペンターズが1位だった。
1983年、33歳でカレンが早逝して、カーペンターズは消滅する。
しかしその比類なく美しい声と完成度の高い楽曲には、時代を超越できる芸術性があるとわたしは思っている。
バッハやモーツァルトの名曲ように、100年後、200年後の世の中でもポピュラー音楽史上最も美しい作品のひとつとして聴かれ続けているように思うのだ。
Close To You
カーペンターズの出世作となった、彼らの初めての大ヒット曲。4週連続全米1位。
バート・バカラックという稀代のメロディ・メーカーの手による作品だ。
バカラックの曲には、大衆的なポップスでありながら、同時になんとも言えない気品があるのが魅力だ。
Yesterday Once More
ジョン・ベティス作詞、リチャード・カーペンター作曲。
カーベンターズの代名詞ともなっているような、彼らの代表曲だ。日本でもオリコンチャート5位と、彼らのシングルで最高位を記録している。
この曲もカレンの美しい低音から始まる。
When I was young I’d listen to the radio …
この歌い出しの瞬間は思わず鳥肌が立つほどだ。
この当時、ラジオを中心に50~60年代のオールディーズのリバイバルブームがあったようで、この曲はそのブームがとても嬉しいと歌っている。
最近は映画の大ヒットでクイーンのリバイバル・ブームが起こっているが、いつかカーペンターズのリバイバル・ブームも起こってほしいな、と思う。
その資格というか、彼らの音楽の時代を超えた普遍的価値は充分にある。
Superstar
スワンプ・ロックの神様、レオン・ラッセル作の名曲。
オリジナルは、バンドマンに対するグルーピーの恋心を歌ったデラニー&ボニーの「グルーピー」という曲。カーペンターズ・バージョンではドギツい表現の歌詞を変えて、ファンのせつない恋心ということになっている。
日本で初めてオリコンチャートベスト10入りを果たし、日本で彼らの名前を広めることになった曲。
Top Of The World
ジョン・ベティス作詞、リチャード・カーペンター作曲。ジョン・ベティスはリチャードの大学時代の親友で、カーペンターズの名曲にはこのコンビによるものが多い。
「トップ・オブ・ザ・ワールド」というのはべつに売れて天狗になってる歌ではなくて、あなたを愛しているから世界のてっぺんにいる気分、という恋する気持ちを歌った歌だけれど、文字通りこの曲は全米ナンバーワンとなり、彼らはポップス界の頂点を極めたのだった。
Only Yesterday
ベティス&カーペンター作。全米4位、日本12位。この曲もまたポップスのお手本のような、大胆なメロディの素晴らしさに聴き惚れる。爽やかな風が吹き抜けるような名曲。
Rainy Days And Mondays
ポール・ウィリアムズ作詞、ロジャー・ニコルズ作曲。全米2位。
ポール・ウィリアムズはシンガー・ソングライターで、映画『ファントム・オブ・パラダイス』(1974)では悪役のスワン役を務めた。
ロジャー・ニコルズはソフト・ロックの神様として、独特のクールな曲を書く職人だ。ピチカート・ファイヴの小西康陽など、熱烈な支持者がいる。
Jambalaya (On the Bayou)
カントリー・ミュージックのレジェンド、ハンク・ウィリアムスが1952年に発表した名曲。
「ジャンバラヤ」というのはルイジアナ州ケイジャン地方の料理で、米と魚介類などを使ったパエリヤのような料理のこと。
川辺に仲間や親類たちが大勢集まって、ジャンバラヤやザリガニ料理などの郷土料理を食べながら楽しんでいる様子が歌われている。
まさに清流のせせらぎを思わせるような爽やかなアレンジ、そしてカレンの愛らしくキレの良いヴォーカルと、素晴らしいカバーになっている。
Please Mr Postman
モータウンの女性コーラスグループ、マーヴェレッツのデビュー曲で、全米1位を獲得した大ヒット曲。ビートルズによるカバーでさらに世界的に有名になった。カーペンターズ版でも全米1位、日本11位。
カントリーからR&Bまで、幅広い音楽をカーペンターズは見事に自分たちのものにしていた。
This Masquerade
レオン・ラッセル作。「プリーズ・ミスター・ポストマン」のシングルのB面に収録された。カレンのヴォーカルは大人の雰囲気でエレガントに歌われる。ため息が出るほどの美しさ。
I Need to Be in Love
ベティス&カーペンターに、「カリフォルニアの青い空」のアルバート・ハモンドも参加して書かれた作品。
日本では1995年にTVドラマ『未成年』のエンディング曲として使われてから、リバイバルヒット(オリコン5位)し、一躍有名になった。日本の30~40代にとってはカーペンターズのいちばんの代表曲かもしれない。
兄リチャードによれば、カレン・カーペンターが最も気に入っていた曲だという。
これ以上はないぐらい爽やかなサビのメロディに、日頃聴いていた変態みたいなロックで汚れきった心が洗われるような気分だっだ。
カーペンターズのアルバムを最初に聴くならやはりベスト盤からがいい。
『未成年』でのリバイバル・ヒットに合わせて発売された日本独自のベスト盤『青春の輝き~ベスト・オブ・カーペンターズ』はなんと350万枚というとんでもない売り上げを記録した。内容も完璧だった。
他には『ゴールド~グレイテスト・ヒッツ』もおススめです。