名盤100選 47 ニック・ロウ『ジーザス・オブ・クール』(1978)

ジーザス・オブ・クール

70年代英国の≪パブ・ロック≫と総称されるアーティストの中でも、最も代表的なアーティストだ。
前回取り上げたドクター・フィールグッドもパブ・ロックと呼ばれるけど、音楽性は似ても似つかない。
ただパブで演奏していたというだけでのことなので、パブ・ロックとは音楽ジャンルではなく、業種のことなのだ。

ニック・ロウはポップスを熟練した技術と芸で生み出す、ポップ職人である。
この時代のニック・ロウの本業はプロデューサーで、エルヴィス・コステロやプリテンダーズなどのアルバムもプロデュースしているが、最も有名な仕事は、あのダムドのファースト・アルバムのプロデュースにちがいない。たぶん彼のソロ・ワークより有名であり、歴史的な評価をされている。

ダムドのファーストは粗いザラついた団子のような音のかたまりでスピード重視、ふつうの感覚では非常に完成度の低いアルバムである。
でもニック・ロウはこれこそ最高にポップじゃないか、と考えたに違いない。
彼にとってはポップとは、100円ショップのカラフルなプラスチック・バケツのように退屈な工業製品ではなく、大人が眉をひそめるような、不真面目で耳に快くない、でもパワフルで熱狂的に楽しい音楽のことだったに違いない。
そもそもポップスというものはそういうものであったはずなのだ。

これはニック・ロウのファースト・ソロ・アルバムである。
これの前はブリンズレー・シュウォーツというレイドバックしたイギリス風ザ・バンドみたいなバンドでベースを弾いていた。
ザ・バンドもそうだけど、若いのにものすごくオッサン臭い音楽だと思う。たぶん若いからこそ、背伸びしてそういう音楽をやりたがるのだろうけど。

しかしこのアルバムはきらめくように若々しい、ポップ・アルバムである。
ふざけたジャケットからも想像がつくように、パンク風のロックンロールもあれば、ベイ・シティ・ローラーズに賛辞を贈るアイドル風ポップスまである、様々なポップスのスタイルが詰め込まれたアルバムである。決してパロディではなく、ラジオから流れてきたらいっぺんで好きになるような、どの曲も粒ぞろいで、どれをシングル・カットにしてもいいと思うほどだ。

ユーモアに満ちた、真剣な悪ふざけをしながら、しっかり完成度高く仕上げる。
これこそ真に自分の仕事の本質を知っている大人だけが出来る仕事の仕方である。