【ディランのアルバム全部聴いてみた】『ベースメント・テープス・ロウ』(2014)

The Basement Tapes Raw: The Bootleg Series, Vol. 11

【ディランのアルバム全部聴いてみた 59枚目】
Bob Dylan “The Bootleg Series Vol. 11: The Basement Tapes Raw”

1961年にデビューしたボブ・ディランは、アメリカの新しい音楽の旗手として先頭に立たされ、一躍時代の寵児となった。次々に生み出す作品が大きな注目を浴び続け、議論となったりしたが、本人は望まぬ注目や若い世代の代弁者のように扱われることにほとほと嫌気がさしていたという。

そんな折の1966年の夏、彼はオートバイ事故を起こして重傷を負い、そのままウッドストックの自宅で隠遁生活を送った。
そしてその近所に建っていたピンク色の家には、前年から一緒にツアーを回ってバック・バンドを務めた「ホークス」が越してきて、ディランは彼らと一緒に過ごすようになる。その地下室で彼らは古いルーツ・ミュージックを教え合い、セッションをしたり、オリジナル曲を作ったりした。そのホークスが、後にデビューするザ・バンドである。

そのときに録音されたものは、サンプル・レコードという形で音盤化され、他のアーティストへ曲の売り込みとして使われ、実際にバーズやフェアポート・コンヴェンション、PPMといったアーティストたちがそこに収録されていた曲を取り上げた。

そのサンプル・レコードは海賊版としても出回ったが、75年になってようやく『地下室(The Basement Tapes)』というタイトルで公式発売となった。

言わば元祖ブートレッグ・シリーズのような『地下室』だったが、そのさらにアウトテイクを隅から隅までかきあつめてリリースしたのがこのブートレッグ・シリーズ第11集である。

2枚組38曲入りの〈通常版〉と、6枚組139曲入りの〈デラックス・エディション〉の2種類で発売されたが、わたしはもちろん139曲入りのほうを聴いた(ていうかapple musicにはそっちしかないのだ。。)。

ブートレッグ・シリーズも最初のほうのものこそ「これがアウトテイクなんてもったいなさ過ぎる!」というようなものも多かったのだけど、本作に関しては、途中から始まったり、いきなり中断したりという断片のようなものだったり、その大半が未完成のものだったり、探りながらのセッションのようなものだったり、ひどい音質のものだったりで、正直こんなものまで出す必要があるのか? と思うほどである。

まあそもそもこのブートレッグ・シリーズというものが、巷間に出回るブートレッグを無価値にする目的で、同じ内容のものを公式に発売するという企画なので、商業的な成功を目指すものではない。
でもやっぱり、こんなものまで買う人がいるから出し続けるんだろうなあ、と思う。大レコード会社の有能な大人たちがやってることなので、ちゃんと目算はあるはずなのだ。

全部で6時間半ほどあるけれど、まあ部屋で流しっぱなしにして、掃除をしたり飯を食ったり、本を読んだりして過ごしてみると、だんだんディランとザ・バンドが隣の部屋でリハでもしてるように錯覚してくる。

わたしは「ああそれ、あの曲ね」とか「おっ、そのアレンジいいじゃん」とか独りで言いながら、ときどき真剣に耳を傾けてみたりして、ちょっとだけ贅沢な気分を味わってみた。

↓ 本作の宣伝用オリジナル・トレーラー。

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