LET’S ROCK AGAIN!
監督:ディック・ルード
出演・音楽:ジョー・ストラマー
2002年12月に先天性の心臓疾患がもとで50歳で早逝した、元クラッシュのジョー・ストラマーの、最後の2年間を記録したドキュメンタリー作品だ。
と言ってもジョーは闘病生活をしていたわけでもなく、忍び寄る死の影など全く気付かなかったに違いない。このドキュメンタリーは計らずもその最後の2年間の彼の音楽活動を記録することになったものだ。
このわずか1時間程度のドキュメンタリーには、ジョー・ストラマーの素晴らしい人間性が溢れ出ている。まったく彼のことを知らない人でも、これを見たらジョー・ストラマーという人間を好きになるに違いない。
クラッシュ解散後、ジョーはソロ・アルバムを発表するも商業的に失敗し、ソニーから契約解除される。そしてその後10年間も、音楽シーンの第一線から遠ざかる。
ドキュメンタリーの始まりは、10年ぶりに結成したバンド、ジョー・ストラマー&ザ・メスカレロスとしての2ndアルバムを発表したばかりの時期で、前作が売れなかったため、なんとかこの2ndを売らなければと、ラジオ局を巡り、飛び込みでCDをかけてもらうよう自ら交渉するところから始まる。
ジョーは包み隠さず現在の窮状を語る。
「前作は赤字だった。つまり会社が赤字を被った。本来ならおれたちは追放されてここにはいないだろう。次は出せなかったはずだ。だから今度こそ赤字を埋めないと。次のチャンスはないだろう。つまり生き残るための闘いだ」
元パンク・ロッカーのドキュメンタリーというよりは、NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』でも見ているようだ。
彼はライブにもなんとか客を集めるために、ライブ当日にひとりで街頭に立ち、白い紙に自筆で書いた「チラシ」を通行人に声をかけながら配る。ほとんどは無視されるか断られるが、それでも笑顔で声をかけ続ける。
あのジョー・ストラマーが…、とわたしはその映像のせつなさと、そしてあまりの彼の潔さ、誠実な態度に、思わず涙ぐんでしまった。
「客がゼロのハコで演奏したことがある。だから、人1人でも、犬1匹でもありがたいんだ。たとえ聴いていなくてもね」
あのジョー・ストラマーも、クラッシュでなければただの人なのだ。
彼はそれを当然のように受け入れている。音楽を続けるために、なんとかライブに客を呼び、なんとかCDを売ろうと必死だ。
ライヴが終わればジョーはファンに囲まれ、「私が最高に愛したロッカー」「あなたの音楽がわたしの人生を変えた」と賛辞を送られ、サインや記念写真を求められ、それに快く応える。ときにはファンたちに質問攻めに遭ったり、彼らの熱い想いを何時間も聞くこともある。
彼のこの言葉にグッときた。
「ヒーローからゼロまで経験できてよかったと思う。魂のために」
わたしは泣いた。