ダイナソーJr./クイックサンド (デヴィッド・ボウイ)1990

Wagon [Single-CD]

【カバーの快楽】
Dinosaur Jr – Quicksand

デヴィッド・ボウイの1971年の名盤『ハンキー・ドリー』に収録された「流砂(Quicksand)」のカバー。

このダイナソーJr.のバージョンは、たしか日本盤の「ワゴン」のシングルCDにカップリングとして収録されていたものだ。

わたしは先にボウイのオリジナルを聴いていたはずなのだけれど、たぶんピンと来ていなかったのだろう、このダイナソー版で、「こんな良い曲だったんだ!」と気づいたのだった。

今聴いてみても、ボウイのオリジナルは、ちゃんと手が込んでいて完成度も高く、一聴してわかる名曲だ。
でも、当時のわたしにはJ・マスシスが疲れ果てたような頼りない声で「僕にはもう、力が残ってないんだ」「自分を信じてはいけない」と歌うほうが刺さるものがあったのかもしれない。

その当時のわたしは、やりたいことが曖昧になり、やるべきことがわからなくなり、夢と現実逃避の違いもよくわからなくなっていた頃だったはずだ。1991年、わたしが25歳の頃の話だ。

夜中にベッドでこの曲をヘッドホンで聴きながら、生き物のように流れる流砂に身を任せるイメージで、このままどこかに運んで行ってくれればいいのに、と怠惰な気持ちで考えると同時に、いったいどこに運ばれて行くのかわからない不安に苛まれる。

あれから30年。

たぶん、あの頃のわたしが逆に一度も想像しなかったような、なんということもない生活を安い月給にしがみつきながら細々としている。
残念ながら、お金持ちにもなれなかったし、有名人にもなれなかった。

だからと言ってそんなに悪い生活ではないけれど、25歳のわたしが知ったらゾッとするほどつまらない人生だと思うかもしれない。

そうかもしれないけれど、これでもまだおまえにしては上出来の方なんだよ、と身の程知らずで血気盛んなわりに中身が空っぽの若者に優しく諭してあげたいものだ。

Visited 51 times, 1 visit(s) today