真に革命的な、唯一無比のロック・アーティスト
妖しげな香りをふりまきながら高い知性を持ち合わせ、極上のポップセンスを持ちながらアングラ嗜好であり、博愛的なのか変態的なのか、狂気の淵を覗き込む哲学者のようでもあり、なにをしでかすかわからないような「危険人物」の雰囲気を、デヴィッド・ボウイは生涯持ち続た。
芸術面と商業面を両立して成功させた、真に革命的な、唯一無比のロック・アーティストだった。
彼がこの世からいなくなってしまったことは寂しいけれども、同時代に彼がこの世に存在して、素晴らしい音楽を遺してくれた奇跡を心から喜びたい。
ここではそんなデヴィッド・ボウイの名曲から最高の10曲を厳選し、初めて聴く方のために、できるだけとっつきやすく、彼の音楽がよくわかるような順に並べてみました。
No.1から順に、気に入ったらぜひ聴き進めてみてください。
Ziggy Stardust
デヴィッド・ボウイの5枚目のアルバムで、彼の代表作にして、史上最高のロックアルバムと名高い名盤『ジギー・スターダスト』のタイトル曲だ。
永遠に宇宙空間を漂い続ける孤独な生命体から送信され、地球の孤独な若者だけが受信できるメッセージのようなアルバムである。
なんて思いながら若き日のわたしはよく深夜にヘッドホンで聴いたものだった。
イタいなあ、と思われても仕方がない。
当時のわたしは日本を代表する孤独な若者の気分だったのだ。
今から思えばどこにでもいる普通の若者だったのだけど。
一度聴いたら忘れられない、メロディアスでカッコいい完璧なロックナンバーでありながら、なぜか絶望的な寂しさのような哀愁も漂う名曲だ。
Starman
アルバム『ジギー・スターダスト』からシングルカットされ、大ヒットしたデヴィッド・ボウイの代表曲。
この曲もまたメロディが美しくドラマチックな名曲だ。
見た目はSF風でギンギラのグラムロックだけど、アコギをサウンドのベースにしているところがちょっとせつなく、味わい深い。
もの凄いド派手な宇宙人コスプレなのに、持ってるのがアコギというのがまたカッコいい。
Suffragette City
宇宙から来たバイセクシャルのロック・アーティストが地球でスーパースターになり、そして凋落して破滅するというストーリーのアルバム、『ジギー・スターダスト』のクライマックスに位置する、疾走感溢れるロックンロールだ。
「サフラゲット・シティ」を直訳すると「婦人参政権の街」という意味らしい。
この曲でジギーの凋落が歌われているはずなのだけど、まあどんな訳詞や解説を読んでもさっぱり意味がわからない。結局どうしてジギーは落ちぶれたのかよくわからないのである。
ヘロインのせいでダメになったとか、実はご婦人とヤリたいだけだったことがバレてファンを失望させたととか、深読みしたいろいろな説があるらしい。
曲調からして「派手に暴走しちゃった」というのは漠然とではあるけれど伝わってくる。きっとロックスターがやりそうなありとあらゆることをやりつくしたのだろう。
多くは語るまでも無く、ロックスターなんてものはだいたいそんな風に調子に乗って落ちぶれる宿命ざます、と自虐的に語っているようでもある。
まあ自由に想像しながら自分が面白いと思う解釈で聴いたらいいと思う。
ロックってそういうものだ。
Lady Stardust
『ジギー・スターダスト』からの曲ばかり並んだが、その最後はこの曲。
ピアノで始まる、美しいメロディのバラードだ。
最初に聴いたときの印象は強烈で、ものすごく心を持っていかれる曲だった。
この曲が入っていなかったらこのアルバムをこれほど熱愛しなかったかもしれない。
これもまあ歌詞の意味はてんでわからないが、ジギー・スターダストには実はどこかに分身がいて、それが妖艶なレディ・スターダストで、二体が交わってひとつの肉体に戻ることをいつも希求しているのだ、ということを想像しながらわたしは聴いていた。
いや、たぶんそんな歌詞はないが、あくまでも想像である。
ボウイの4作目『ハンキー・ドリー』からシングルカットされた曲だ。
ボウイの中でも、特にポップで、キャッチーな曲で、日本でもCMとか、TV番組内のBGMなどに使われるのをときどき耳にする。
『ジギー・スターダスト』の直前の作品だけど、「変化しろ、金持ちなんかになりたがるな」と、歌っている。
成功に安住するな、変わり続けろ、とまるでこれから先の自身のアーティストとしての決意を宣言しているような歌だ。
ボウイはその宣言通りたしかに変わり続けて見せたが、とんでもない金持ちにもなった。
Life On Mars?
1971年の4作目『ハンキー・ドリー』からシングルカットされ、全英3位のヒットとなった曲。
フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」とまったく同じコード進行を使っているそうだ。
確か、ファンが選ぶボウイの好きな曲でも1位になっていた、人気の高い曲だ。
サビで思いっきり張り上げるボウイの高音が気持ちいい。
Diamond Dogs
デヴィッド・ボウイの、8枚目のアルバム『ダイアモンドの犬』のタイトル曲だ。
このアルバムは、クソ評論家たちには不評だったらしいのだけど、わたしは昔からこの曲もアルバムも大好きだった。
タイトルがカッコいいし(意味はわからんけど)、猥雑なロックンロールの妖しい感じがたまらない。
ボウイからいつも感じる、「静かなる狂気」も相変わらずじとーっと沁みてくる。
ビートやサックスの感じとか、ちょっとローリング・ストーンズの「ブラウン・シュガー」に似ている。
Heroes
11枚目のアルバム『ヒーローズ』のタイトル曲だ。
この曲はボウイがベルリンに移住していた時代に作られた作品で、ジャーマン・ロックの影響を受けていると言われている。
当時のジャーマン・ロックというのは、カンとかノイとかクラフトワークみたいな音楽だ。
わたしはジャーマン・ロックはよく知らないけれど、なんとなく、電子音的でミニマル的で無感情なイメージだ。そういう意味では、『KID A』とかのレディオヘッドなんかもジャーマン・ロックっぽい。
たしかにこの「ヒーローズ」には、そんな感じがしないでもない。
無感情ということはなくて、もっと熱いけど。
rockin’on誌(2018年2月号)の特集〈UKロック・アンセム100曲!〉で、デヴィッド・ボウイからはこの曲が選ばれていた。
デヴィッド・ボウイと言ったら、今は「ジギー」じゃなくてこっちなのかな。
Ashes To Ashes
13枚目のアルバム『スケアリー・モンスターズ』からのシングルで、全英1位となった大ヒット曲だ。
この頃のボウイはもう、10年選手でありながら、80年代ニューウェイヴの先端をいってるような音楽をやっていた。
パンク革命でオールド・ロックのアーティストがバタバタと倒れていく中で、ちゃんと時代の先頭を走り、商業的にも大成功するのだから大したものだ。
なぜそんなことができるかというと、そりゃやっぱり、天才だからだ。
Let’s Dance
14枚目のアルバム『レッツ・ダンス』からのシングルで、全英・全米ともに1位となる、ボウイ史上最大のヒットとなった。
予想外のダンス・チューンの爆発的成功に、当時のロックファンは「商業主義に魂を売り渡したあ」と嘆き、否定的だった。
わたしもそう思っていた。
しかしこれ、今聴くと、一周回ってやっぱりカッコいい曲だなあと思う。
いいじゃない、こういうのも。
ここまで聴いて来たらもう立派なデヴィッド・ボウイファンですので、膨大な数があるアルバムをゆっくりと、死ぬまで聴き続けましょう。
ボウイの音楽は幅が広く、奥も深いので、決して飽きたりしませんから。