パティ・スミス/サマー・カニバルズ(1996)

GONE AGAIN

【NYパンクの快楽】
Patti Smith – Summer Cannibals

パティ・スミスは1980年に元MC5のギタリスト、フレッド・ソニック・スミスと結婚したのを境に一時引退し、およそ8年間音楽の世界から離れてデトロイトで生活し、その間に2児をもうけている。

そして1988年に復帰すると、夫のフレッドのプロデュースで『ドリーム・オブ・ライフ』をリリースする。
まさに、幸福の絶頂だったはずだ。

しかし復帰の翌年、彼女が20代の頃に同居した盟友、『ホーセス』や『ドリーム・オブ・ライフ』のジャケットを撮影した写真家、ロバート・メイプルソープがHIVに感染して死去する。

このあたりから理不尽とさえ思えるほどの不幸が次々と彼女を襲う。

さらに翌年にはパティ・スミス・グループのキーボーディスト、リチャード・ソールが心臓発作で死去、そして94年には最愛の夫フレッドが、心不全でパティを残して逝ってしまう。46歳の短すぎる人生だった。
パティの幸福な結婚生活は14年間で終わりを告げた。
さらに追い打ちをかけるように同じ年に、パティのツアー・マネージャーも務めていた彼女の実弟、トッドも急死する。

想像を絶する、哀しみと苦しみだったに違いない。
神も仏もないのか、とわたしなら思うだろう。

パティは息子たちとニューヨークへ戻り、翌95年にはボブ・ディランとツアーをする。
そして96年に8年ぶりのアルバム『ゴーン・アゲイン(Gone Again)』を発表する。
この曲はそのアルバムのリード・シングルだ。

「サマー・カーニバル(夏祭り)」にかけたと思われる「サマー・カニバルズ(夏の人喰い族)」というブラック・ユーモアのような曲で、「夏の人喰い族よ、わたしを喰え、喰え!」と歌う、恐るべき曲だ。

絶望の淵から帰還したパティを憐憫の情を持って迎えようとしたファンやマスコミは、この新曲に度肝を抜かれたに違いない。

傷だらけの「パンクの女王」の強靭な精神に瞠目しながら、あらためてわたしは、「詩」や「音楽」という行為が、人間が神に反撃できる、数少ない武器のひとつのように思えてくる。
運命や現実に翻弄され、痛めつけられ、絶望の淵に突き落とされる人間たちにとって、現実の意味を、じゃなければ意義を、書き換えることができる、最終兵器のような気がしてくるのだ。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする