はじめてのヴェルヴェット・アンダーグラウンド 名曲10選 10 The Velvet Underground Songs to Listen to First

Transmission Impossible

ロックンロールとボブ・ディランを指向したルー・リードが中心となり、実験的な前衛音楽を指向したジョン・ケイルを配して結成されたヴェルヴェット・アンダー・グラウンドは、1967年にポップアート界の鬼才アンディ・ウォーホルのプロデュースによってデビューした。

同じ67年に発表されたビートルズの『サージェント・ペパーズ』がその後のロック界に大きな影響を与えたのも間違いはないが、その裏で、人気のない地下室でひっそりと、ロックンロールと前衛音楽とポップアートという3つの細胞がひとつになって、妖怪人間ベムのように『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』という異形のモンスターが誕生し、その瞬間にオルタナティヴ・ロックという概念も誕生した。

ロック界に地下フロアを増設したという意味で、現代まで続くすべてのオルタナティヴ・ロックの祖として、このアルバムの影響力は『サージェント・ペパーズ』以上だとわたしは考えている。

そんな、踏み込むのにちょっと勇気がいるヴェルヴェッツの世界へ初めて足を踏み入れる人のために、できるだけ聴きやすく、そして芳醇な地下世界の香りを湛えた名曲を、10曲にしぼって入門編として紹介しよう。

#1 日曜の朝(1967)
Sunday Morning

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ(紙ジャケット仕様)

ロックの世界に「地下フロア」を増床したデビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』のオープニングを飾る曲。

その評判やイメージから、どれほどダークで難解なものが聴けるかと期待する人には肩透かしを食わせることにもなりかねない、ケレン味のないシンプルでメランコリックな小曲だ。

しかしこのシンプルな音楽性はヴェルヴェッツの本質でもあるし、霧がかかったような音の後ろに隠れていそうな謎の奥行きこそが、独特の世界観であり、彼らの魅力でもある。

#2 僕は待ち人(1967)
I’m Waiting for the Man

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ(紙ジャケット仕様)

『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』の2曲目に配置されたこの曲こそが、ヴェルヴェッツのイメージを端的に表している代表曲だ。

それまでの、エルヴィスやビートルズ、ビーチ・ボーイズのようなロックンロールとはまるで違う、壊れたラジオのような雑音に包まれた、痙攣しているようなビートの、畸型ロックである。

初めは、この行儀が悪くて落ち着きなく痙攣している小さなモンスターを、江戸川乱歩の変態奇譚小説を読んだ時のように、ドキドキしながら聴いたものだった。

#3 宿命の女(1967)
Femme Fatale

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ(紙ジャケット仕様)

ヴォーカルはドイツ人女性のニコという、元々はヴェルヴェット・アンダーグラウンドとはなんの関係もない女性である。

アンディ・ウォーホルがヴェルヴェッツをレコード・デビューさせるのと引き換えに、このロクに歌えないジャンキーのニコをゴリ押しして歌わせたというパワハラの賜物である。

ルー・リードは彼女に歌わせるのは嫌でたまらなかったようだが、結果的にニコは3曲しか歌っていないにもかかわらず、その印象と存在感の大きさは、その実力や曲数以上のものがあり、アルバムのイメージを決定づける要因となった。

#4 オール・トゥモロウズ・パーティーズ(1967)
All Tomorrow’s Parties

ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ(紙ジャケット仕様)

ニコの感情のカケラも感じられない異様なヴォーカルによる、地下の暗室で繰り広げられる怪しげなパーティの演しもののような歌だ。
聴く側も、蝶々みたいな仮面をつけ、全裸に亀甲縛りで聴くのがオツな聴き方というものである。

ジャパンやブライアン・フェリー、スージー&ザ・バンシーズ、戸川純という、クセの強い人たちがカバーしいる。

#5 ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート(1968)
White Light/White Heat

ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート(45周年記念デラックス・エディション)

アンディ・ウォーホルやニコとの関係は1stだけで終わり、今度はルー・リードとジョン・ケイルの関係が悪化していく中で作られた2nd『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』のタイトル曲。

リードvsケイルの関係性がそのまま、ロックvs前衛の闘いとして音に記録されたようなアルバムである。

ヴェルヴェッツのアルバムではいちばん聴き難いアルバムと言えるが、彼らのダークな負の魅力が過激に放出された音世界とも言える。

デヴィッド・ボウイによるカバーはカッコいいぞ。

#6 ホワット・ゴーズ・オン(1969)
What Goes On

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドIII<45周年記念盤 スーパー・デラックス・エディション>

ジョン・ケイルが脱退して、キーボードにダグ・ユールが加入し、ルー・リードの主導で作られた3rd『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』。
セルフタイトルにしたのはリードが、やっと自分のやりたいことがやれたという思いの表れなのかもしれない。

前衛的な側面は影を潜め、ロック・アルバムとしては完成度の高いものとなった。楽曲も繊細で充実している。このアルバムをヴェルヴェッツの最高傑作に挙げる人も多い。

この曲はルー・リードの、ボブ・ディラン&ロックンロールへの指向が生の形で出ているような、シンプル傑作。

#7 ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト(1969)
Beginning to See the Light

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドIII<45周年記念盤 スーパー・デラックス・エディション>

3rdアルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』より。
この曲も「ホワット・ゴーズ・オン」同様、ルー・リード流シンプル・ロックンロールと言えるだろう。
ヴェルヴェッツではあまり聴けなかった、ノリノリのルー・リードが聴ける。

#8 アイ・キャント・スタンド・イット(1969)
I Can’t Stand It

V.U.

ヴェルヴェッツ解散後10年以上が経過した1985年に、未発表曲集として発売されたアルバム『V.U.』収録曲。

しかしこのアルバムは、未発表曲集などという扱いではもったいないほどの内容だ。

3rdと同じ時期に録音され、本来なら4枚目のアルバムとして出されるはずだったのがレコード会社とのトラブルでお蔵入りになっていた楽曲群で、楽曲も演奏も、3rdアルバムと遜色ないクオリティで、正式に4枚目のアルバムとしてこのまま発表されたとしても良かったのにと思うほどである。

音質もヴェルヴェッツのアルバムの中では最良のものだ。

#9 リサ・セッズ(1969)
Lisa Says

V.U.

これも『V.U.』より。
後年のルー・リードらしい曲ではあるが、ヴェルヴェッツでは少なかった、感情が溢れるような歌と、メロディが耳に残るバラード。

このアルバムを、寄せ集めのアウトテイク集のように思い込んで避けていると損をする。人によってはこれをヴェルヴェッツの最高作に選んでも不思議はないぐらいの、傑作アルバムである。

#10 スウィート・ジェーン(1970)
Sweet Jane

ローデッド(45th アニヴァーサリー・エディション)

今でこそヴェルヴェッツの1stや3rdは歴史的名盤に数えられているが、当時はレコードがまったく売れず、3rdを最後にレコード会社から契約を切られてしまった。

そして新たなレコード会社に移籍し、ヴェルヴェッツ4枚目のアルバムとして『ローデッド』が発表され、この曲が収録された。

しかし、ルー・リードは移籍のプレッシャー等で精神を病んで失踪し、アルバムの発売を待たずに脱退してしまう。

残されたヴェルヴェッツのメンバーは、レコード会社との契約も残っているため解散というわけにもいかず、その後はダグ・ユールが主導することになる。

この曲はルー・リードがソロになっても歌い続け、ライヴ盤にも何度か収録されている彼の代表曲だ。

オリジナル・アルバムを聴くなら、やはりまずは1stから聴くことをお薦めする。

わたしにとっての最高傑作もやはり1stだ。
バンドの意に沿わない制作経緯や、パワハラのゴリ押しや、完成度の低さや、混乱や錯乱があるとはいえ、ロックと前衛とポップアートの落ち着かない出会いによって偶然に生まれたその異形の姿が美しい。

1stが気に入れば、その後は2nd→3rd→V.U.と順に聴き進めることをお薦めしたい。

『ローデッド』はヴェルヴェッツらしいダークな世界観が失われすぎていると感じるので、あまりわたしは好まないが、ポップで聴きやすくはあるので、興味があれば聴いてみるのもいい。

Visited 143 times, 1 visit(s) today