ヒストリー・オブ・ロック 1988【オルタナティヴ・ロックの扉が開く】Greatest 10 Songs

Bug [Analog]

1988

巷では『ドラゴン・クエストⅢ』と村上春樹『ノルウェイの森』がどちらも記録的なヒットとなったこの年、ロック界で話題となったのは、覆面バンドとして登場したトラヴェリング・ウィルベリーズだった。

覆面バンドと言っても、全員レコード会社が違うというという理由での建前上のことであり、正体は誰もが知る大物ミュージシャンたちのコラボで、話題性に加えてその音楽的な内容の良さでシングル・アルバム共に大ヒットした。

一方で、前年のガンズ・アンド・ローゼスとU2を最後に、メインストリーム・ロックの世界的メガヒットは影を潜めた。

メインストリームのロックがかつての攻撃性や邪悪なパワーを失い、MTV映えするエンターテインメント・ロックと化していった一方、ヒップホップなどのブラックパワーが反体制的なスタンスや社会問題の提起、過激な攻撃性を表現するようになっていた。

もちろん、ロックも死んだわけではなかった。
米国のインディーズ・レーベル界からはソニック・ユースやダイナソーJr.、ピクシーズなどのオルタナティヴ・ロック勢が、新たな波として台頭しつつあった。
MTV時代のエンターテインメント・ロックによって失われつつあったロックのリアリティや攻撃力、青クサい疾走感を備え、パンクへの回帰とも言える、熱量の高い激しくノイジーなギター・ロックへと立ち帰っていた。やがて、彼らが開いた扉から新たなロックの大波が怒涛のように押し寄せることになる。

一方の英国では、80年代シンセ・ポップやニュー・ロマンティックなども衰退しつつあり、唯一の拠り所であったザ・スミスも解散して、ロック空白期のような状態にあった。英国ロックが復活するのは、さらに翌年まで待たなければならない。

以下はそんなオルタナティヴ・ロックによる革命前夜にも似た、1988年のロック・シーンを象徴する、10組10曲を選んでみました。

トラヴェリング・ウィルベリーズ/ハンドル・ウィズ・ケア
Traveling Wilburys – Handle With Care

The Traveling Wilburys Vol 1

トラヴェリング・ウィルベリーズは、ボブ・ディラン、ジョージ・ハリスン、ロイ・オービソン、トム・ペティ、ジェフ・リンという5人の大物ミュージシャンたちによるコラボ・バンドだ。最初は覆面バンドという建前だったが、ラジオで流れるとそのあまりにわかりやすい特徴的な声で、すぐに正体がバレたという。

この曲は彼らの1stシングルとしてリリースされ、全米2位の大ヒットとなり、アルバムも高く評価され、グラミー賞を受賞した。

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トレイシー・チャップマン/ファスト・カー
Tracy Chapman – Fast Car

TRACY CHAPMAN

さらにこの年大きな注目を集めたのは、アコギの弾き語りスタイルで孤独や苦悩、社会問題などを歌ったトレイシー・チャップマンのデビューだろう。

ろくでなしの父親から逃れるために家を出て、一緒に暮らし始めた恋人もまた同じようなろくでなしだった、、心に重く突き刺さる短編小説を読んだような気持になる歌詞で、全米6位、全英4位の大ヒットとなったこの曲を収録した1stアルバムは、世界で1,000万枚を超す大ヒットとなった。

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パブリック・エナミー/ブリング・ザ・ノイズ
Public Enemy – Bring The Noise

It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back (Limited TranslucentYellow Vinyl) [Analog]

当時ヒップホップ界の中でも最もエネルギッシュで過激なグループであったパブリック・エナミーは、ロック界にも大きな影響を与えた。

名盤2nd『パブリック・エナミーⅡ(It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back)』の収録曲であるこの代表曲は、ヒップホップでありながらも音楽的で、ロック的でもある、アグレッシヴかつパワフルな音楽だ。

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リヴィング・カラー/カルト・オブ・パーソナリティ
Living Colour – Cult of Personality

Vivid

米ニューヨークの、黒人4人によるハード・ロック・バンド。

CBGBで演奏する彼らを見たミック・ジャガーが、ギタリストのヴァーノン・リードを自身のソロ・アルバムに使い、それをきっかけにエピック・レコードからデビューすることになった。

ファンク・メタルなどとも評された作風で、当時は”黒いツェッペリン”などとも呼ばれていたものだ。

この曲は1stアルバム『VIVID』からのシングルで、グラミー賞のベスト・ハードロック・パフォーマンス賞を受賞した。

テレンス・トレント・ダービー/ウィッシング・ウェル
Terence Trent D’Arby – Wishing Well

Introducing The Hardline According To Terence Trent D'Arby

テレンス・トレント・ダービーの登場もこの年の大きな話題となった。
特徴的な声を持ち、作詞・作曲はもちろん、すべての楽器を自ら演奏して、ロック、ファンク、R&B、ゴスペルなどを融合した独創的な音楽を展開した。

伝統的なR&Bシンガーのような力強さとプリンスのような天才を併せ持ち、1stアルバム『T.T.D.(Introducing The Hardline According to)』は全世界で1,200万枚を売り上げるメガヒットとなった。
この曲はアルバムからのシングルで、全米1位、全英2位のヒットとなった斬新なファンクナンバーだ。

ちなみに”テレンス・トレント・ダービー”は当時の名前で、現在は”サナンダ・マイトレイヤ”と改名している。

ソニック・ユース/ティーンエイジ・ライオット
Sonic Youth – Teenage Riot

Daydream Nation [12 inch Analog]

当時から”米アンダーグラウンド界の帝王”と呼ばれた、ソニック・ユースがインディーズ時代最後にリリースした、2枚組の集大成的アルバム『デイドリーム・ネイション』のオープニング・トラック。モダンロック系のラジオでヘヴィロテとなり、彼らの名前を一気に広めた。

彼ら自身で制作したMVには、彼らがリスペクトする人物たち、パティ・スミス、ニール・ヤング、イギー・ポップ、MC5、ジョニー・サンダース、J・マスシスなどの映像も使われている。このチョイスなどはまさに、90年代のオルタナティヴ・ロックの方向性を表していると言えるだろう。

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ピクシーズ/ボーン・マシーン
Pixies – Bone Machine

Surfer Rosa

ピクシーズの1stアルバム『サーファー・ローザ』の冒頭を飾る曲。豪快野蛮なビートと、ノイジーなギター、お腹がすいてイライラしているかのようなデブの絶叫、でもどこかユーモラスで、チャーミングな曲だ。

カート・コバーンがお手本にした、ユーモアとシリアス、ポップとヘヴィ、カッコ悪さとカッコ良さを併せ持った魅力を持つ、90年代ロックの扉を開いた最高のバンドだ。

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ダイナソーJr./フリーク・シーン
Dinosaur Jr – Freak scene

Bug [Analog]

いつ聴いてもテンションが上がる、ダイナソーJrの代表曲。シンプルだけどポップな歌メロと、バカのエネルギーを全開で放出するような轟音ギターとの組み合わせが楽しく、疾走感と耳あたりの悪さが素晴らしい。

ここにあげた3組、ダイナソーJr.、ソニック・ユース、そしてピクシーズによって、90年代に向けたオルタナティヴ・ロックの扉が開かれたのだ。

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マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン/ユー・メイド・ミー・リアライズ
My Bloody Valentine – You made me realise

Isn't Anything [輸入盤CD] (REWIGCD158)_1258

ザ・スミスも解散して、英国のインディ・ロックシーンは寂しい無人の荒野のような状況だったが、孤軍奮闘したのがシューゲイザーの元祖となったこのマイ・ブラッティ・ヴァレンタインだ。

英国ロックの荒野に落雷した閃光のようなこの曲は、彼らの4枚目のシングルで、ブレイク作となった。原始的で初期衝動のままの青クサい勢いが圧倒的にカッコ良かった。

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ザ・ラーズ/ゼア・シー・ゴーズ
The La’s – There She Goes

The La's / The La's | おんがくのーと

英リヴァプール出身のバンド、ザ・ラーズの2ndシングル。当時はまったく売れなかったようだが、後に80年代英国インディ・シーンを代表する名曲のひとつとして広く知られるようになった。

オアシスのメンバーがラーズの大ファンで、サマーソニック05で来日した時に、翌日に東京で行われたラーズのライヴをメンバー全員で見に行ったというエピソードが伝えられている。

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選んだ10曲がぶっ続けで聴けるYouTubeのプレイリストを作成しましたので、ご利用ください。

♪YouTubeプレイリスト⇒ ヒストリー・オブ・ロック 1988【オルタナティヴ・ロックの扉が開く】Greatest 10 Songs

また、apple musicのプレイリストとしても作成済みです。
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ヒストリー・オブ・ロック 1988【オルタナティヴ・ロックの扉が開く】Greatest 10 Songs (goromusic.com)

ぜひお楽しみください。

(by goro)