やさぐれ流浪の1996。でも誓ってヤクには手を出してません【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その16

キッズ・リターン [DVD] 

映画館を辞めたものの、考えていたことはぜんぶ上手くいかなかった。
1996年のわたしは仕事を転々とする流浪の日々を送り、後悔したり焦ったりやさぐれたりしていた。だから、映画なんて見てる気持ちの余裕も金の余裕もなかったはずで、以下はすべて、翌年にレンタルビデオ店に就職して以降に見たものばかりだ。

まず、既にこの連載で触れたものから言うと、タランティーノとロバート・ロドリゲスという旬の二人が組んだ『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(’96)、デ・ニーロ&スコセッシの『カジノ』(’95)、北野武監督の名編『キッズ・リターン』(’96)などがある。

カジノ (字幕版)

この年一番の話題となったのは、映画の流れを変えるほどの衝撃を与えた、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(’95)だろう。刺激的な展開やエグい描写を含んだダークな世界観のサイコ・サスペンスのブームはここから始まったと言っていい。

セブン の映画情報 - Yahoo!映画

当時のレンタル店にはこのパッケージ・イメージを模したバッタもんみたいなB級サイコ・サスペンスがこれでもかと新作棚に並び、信じられないぐらい高回転したものだった。レンタル店で働いていると、「とにかく『セブン』みたいなのはもっとないのか!」という客の心の叫びが聞こえてくるような気がしたものだった。

そして巧妙に練られた脚本でわれわれを惑わし驚かせた、ブライアン・シンガー監督の『ユージュアル・サスペクツ』(’95)も、また大きな話題となったエポック・メイキングな作品だった。

ユージュアル・サスペクツ の映画情報 - Yahoo!映画

その両方に出演していたケヴィン・スペイシーは、この年最もブレイクした俳優だっただろう。わたしもいっぺんに好きになった。

他にも、スーザン・サランドンがアカデミー主演女優賞を受賞し、わたしの好きなショーン・ペンが死刑囚を演じた実話映画『デッドマン・ウォーキング』(’95)もまた衝撃的な作品だった。これは『ショーシャンクの空に』(’94)で主演を務めた俳優、ティム・ロビンスが監督・脚本を務めている。

デッドマン・ウォーキング の映画情報 - Yahoo!映画

この年一番のビッグヒットとなったのは、年末に公開されたローランド・エメリッヒ監督の『インデペンデンス・デイ』(’96)だ。

国威発揚映画だとか悪く言われることもある作品だが、ちょっとそれまでなかったような、異様にポジティヴな保守主義みたいなところが変わってて面白い映画だと思った記憶がある。その映像技術の凄さとともに、時代が変わったことを感じた作品だった。この作品もまたレンタルビデオ店に、大量のB級C級のバッタもん作品を数限りなく発生させてくれたありがたい作品だった。

インデペンデンス・デイ (字幕版)

また、若者たちの間で大いに話題になったのがダニー・ボイル監督によるイギリス映画『トレインスポッティング』(’96)だ。そのヴィジュアル戦略やイギー・ポップやプライマル・スクリーム、アンダーワールドなどによる音楽、そしてヘロイン中毒の若者たちを描いた刺激的な物語が若者に支持され、映画の枠を超えて一大ブームとなったものだ。当時のヴィレッジ・ヴァンガードにはこの作品のポスターやらTシャツやらポストカードやらステッカーやらの商品で大賑わいだったものだ。

トレインスポッティング の映画情報 - Yahoo!映画

ただ、わたしはそれほどピンと来なかったことを覚えている。音楽は確かにわたしの好きな類のものも多く使われていたけれども、映画としてはそれほどいいと思わなかったのだ。

同じストリートの青春映画でいえば、米NYのドラッグやアルコール、暴力などをドキュメンタリー風というか行き当たりばったり風に描いたラリー・クラーク監督の『KIDS』(’95)の方がもっとぶっ壊れていて気に入っていたように覚えている。この監督の次作『BULLY』(’01)も悪くなかった気がするが、どちらもめちゃくちゃ破天荒な作品だったので、今見たらどうなのかはわからない。それを確認してみたい気もするのでこれももう一度見たいリストに挙げておこう。

KIDS/キッズ の映画情報 - Yahoo!映画

そういえば同時期に日本でもヤンキー青春映画の傑作が生まれていた。ナインティナインの二人が主演した井筒和幸監督の『岸和田少年愚連隊』(’96)だ。1975年の大阪・岸和田を舞台に繰り広げられる、ドラッグなんかは出てこないけど、喧嘩に明け暮れる昭和のヤンキーたちを描いたノスタルジックで過激な青春映画だ。監督が三池崇史に替わり、千原兄弟が主演した続編の『岸和田愚連隊 血煙り純情篇』(’97)もよかった。

岸和田少年愚連隊

ジャンキーと言えば、わたしがいちばん好きな日本人俳優、役所広司がシャブ漬けの極道の若頭を演じた『シャブ極道』(’96)は素晴らしかった。たぶん、この映画で役所広司のファンになったのだったと思う。

シャブ極道 の映画情報 - Yahoo!映画

これを撮った細野辰興監督には他にも役所広司と阿部寛が主演の『大阪極道戦争 しのいだれ』(’94)や高橋克典主演の『竜二 Forever』(’02)、中井貴一主演の『燃ゆるとき THE EXCELLENT COMPANY』(’06)など、良作が多い。たぶん今となっては入手困難な作品も多いだろうけど、未見の作品も気になるものが多いので、機会があれば見てみたい。

たまたまヘロインだのドラッグだのシャブだのと危険物品が出てくる映画が並んでしまったが、その危険物品自体に興味があるわけではないのだ。ヘロインだろうが大麻だろうが、わたしはタムシチンキと同じくらい興味がない。あるいは、才能あるロックスターたちを大量に殺した毒物というぐらいの認識だ。

どんなにやさぐれた生活をしていても、そんなものに手を出したことだけはなかったな。

(Goro)