日米ホラー映画革命勃発の1997【死ぬまでにもう一度見たい映画を考える】その17

CURE

わたしは10年間勤めた映画館を辞め、もっとやりがいと将来性があって金ががっぽり稼げる仕事をしようと企んだものの、ガワだけ30歳になろうが所詮は精神年齢16歳のままの中卒馬鹿、無知蒙昧のままでは百戦錬磨の大人たちが集まった冷徹な社会に入りこむ隙も戦う術もなく、いいように騙されたりあしらわれたりして、似合わぬ仕事やつまらぬ仕事を転々としながら、完全に甘く見ていた世の中の冷たい軽侮と失笑の目つきにすっかり意気消沈し、やさぐれてしまった1997年、失意と後悔と焦燥でわたしの心はガッシャガシャになっていた。

金をがっぽり稼げる商才も甲斐性もスター性もまったく持ち合わせていないことに遅まきながら気づいたわたしは、大金持ちやスーパースターになる夢はあきらめ、とりあえず自分の得意なことや好きなことを生かせる職場でコツコツと一生懸命働こうではないかと心を入れ替え、映画と音楽を扱っているお店なら向いてるんじゃないかと考え、レンタルビデオのチェーン店に就職したのだった。

この短絡的な思いつきはしかしめずらしくうまくハマり、その後わたしは店長として5年、本部で15年と、計20年もこの会社に勤めることになる。本部ではバイヤーとしてビデオやDVDの仕入れを担当したため、映画を見る機会はさらに一層増えることになる。

ダンテズ・ピーク の映画情報 - Yahoo!映画

わたしが少し映画から離れている間に、70年代の再来みたいに、パニック映画が流行し始めていた。どちらも火山の噴火や溶岩流によるパニックを描いた『ダンテズ・ピーク』(’97)、『ボルケーノ』(’97)がレンタル店の新作コーナーに大量に並び、それのパッケージデザインだけを真似たバッタモンみたいなB級C級のパニック作品が棚の隙間をもれなく埋めた。

少し前まで「SFX」と言ってた特撮技術を「VFX」と言うようになり、その意味の違いはよくわからなかったものの、特撮技術が急速に進化しているのは確かで、それもパニック大作映画の流行の要因のひとつのようだった。わたしはしばらくのあいだハリウッド大作もあまり見ていなかったので、久しぶりに上記の2本や『インデペンデンス・デイ』(’96)などをビデオで見て、その特撮のクオリティのもの凄さに驚かされたものだった。

マーズ・アタック! [DVD]

宇宙人襲来のパニックものと言えば、現在でもそのジャンルでは最も好きなもののひとつに挙げたい、ティム・バートン監督の『マーズ・アタック』(’96)もこの年だ。馬鹿馬鹿しいが、真理を突いているようなところもあって、わたしは好きだ。

スリーパーズ [DVD]

他にもこの年は傑作をいくつも見た。バリー・レヴィンソン監督の『スリーパーズ』(’96)、クリント・イーストウッド監督の『目撃』(’97)、メル・ギブソン主演の『身代金』(’96)、カウリスマキ監督の『浮き雲』(’97)など。この辺りはもう一度見てみたいし、ジョン・カサヴェテスの息子、ニック・カサヴェテスの監督デビューとなった『ミルドレッド 輝きの季節』(’96)は期待に違わぬ素晴らしい出来だった。主演はもちろん実母のジーナ・ローランズ。父と母の才能をしっかり受け継いだ、素晴らしい二世だった。

ミルドレッド の映画情報 - Yahoo!映画

ポスト・ヌーヴルヴァーグの生き残り、ジャック・ドワイヨン監督の『ポネット』(’96)も印象深い泣かせる映画だった。ヴェネツィア映画祭で主演女優賞を史上最年少で監督した当時5歳のヴィクトワール・ティヴィソルの愛らしさが凄まじい映画だ。

ポネット 4Kレストア版 Blu-ray

ウェス・クレイヴン監督の『スクリーム』(’96)は、それまでのホラー映画(自身の代表作『エルム街の悪夢』も含めた)のお決まりのパターンをあえてパロってみせる二重構造みたいになっていて、スラッシャー・ホラーにも新しい時代の扉が開いたような印象を持ったものだ。2作目までは続編も見たが、知らない間に5作も作られているようだ。物語も続いているようなので、一度全部ぶっ続けで見てみたい気もする。

スクリーム の映画情報 - Yahoo!映画

革命的なホラー映画は同時に日本でも公開されている。わたしにとって衝撃の作品となったのが黒沢清監督の『CURE』(’97)だった。これがこの後やってくるジャパニーズ・ホラーのブームの先駆的作品だと思うが、大仰な演技や説明的な演出を拝した、キレ味のいいリアルな演出や映像表現が、それまでのホラー映画とは一線を画すような新しさに溢れていたものだ。それは北野映画にも通じるものだった。もうすでに3回は見たが、またきっとそのうち見るだろう。

恋極道 [DVD]

望月六郎監督の『恋極道』(’97)ももう一度見たい映画だ。シャブ中の極道を演じた奥田瑛二が素晴らしく、いっぺんに彼のファンになってしまった。

それにしても、またシャブか。

わたしはそっち系には経験はもちろん、一切興味もないことを、前回に続いて重ねて記しておく。

(Goro)