名盤100選 41 ザ・ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』(1966)

ペット・サウンズ

完成度が高すぎるのか低すぎるのか、それすらもわからないほど、奇妙なアルバムである。ロック史上における三大珍味のひとつと言えるだろう。

わたしはこのアルバムをどんなシチュエーションで聴くのが最もふさわしいのかも、いまだによくわからずにいる。
明るい太陽の下をドライブしながらでもないし、夜中に密室でヘッドホンで聴くのもちょっと違う気がする。
とても幸福な気分のときでもないし、ものすごく落ち込んだ気分のときでもない。テンションを上げたいときでもなければ、疲れていて癒されたい気分のときでもない。
ビーチ・ボーイズだけど、夏のビーチで聴くならこれ以外のアルバムのほうがいい。

でもこのアルバムの印象は強烈である。強烈に美しく、そしてなんだか気持ちが悪い。こんなロックアルバムはほかにひとつもない。

わたしはビーチ・ボーイズの音楽をそれほど好んで聴くほうではない。
男の裏声によるコーラスはわたしにとってはそれほど気持ち良くないからだ。はっきり言えばちょっと気持ち悪い。
でもこのアルバムはその気持ち悪さがうまくはまって実に美しく、面白いのである。

これを書くためにわたしはこのアルバムを大音量で聴きなおしてみたが、36分間のあいだほかになにもせず、退屈することなくずっと宙を見つめたまま聴いていられた。
ちょっと変テコなサウンドをじっくり舐めるように味わい、奇妙な音の並びのメロディを追いながら聴いていると、アルバムはあっという間に終わってしまう。36分がものすごく短く感じられる。

わたしはいつもこのアルバムを聴くときはこんなふうに、まるで好きな本を読むようにじっくり味わいながら聴いたものだと思い出した。
わたしは音楽を聴くときはだいたいなにかしながら聴くことが多い。運転しながら、あるいは掃除しながら、なにか書いたりしながら、だったりだ。
でもこのアルバムはなにかしながら聴いてもあまり面白くない。BGMとしてはあまり役に立たない作品だ。でも、ちょっと集中して音楽だけをじっくり楽しもうと思うときには最良の作品である。

ビーチ・ボーイズのほとんどの作品はリーダーのブライアン・ウィルソンによって書かれている。『ペット・サウンズ』もほとんど彼がひとりでプロデュースしながら制作した。

ビートルズの『ラバーソウル』に影響を受けて、ブライアン・ウィルソンはこの作品をつくったそうだ。
そしてビートルズが今度はこの『ペット・サウンズ』に感銘を受けて『サージェント・ペパーズ』を作ることになる。
アメリカ代表とイギリス代表がものすごく高いレベルで、ポップ・ミュージックの進化を競い合っていた幸福な時代の話である。

次はブライアン・ウィルソンが『サージェント・ペパーズ』を超える作品、『スマイル』を発表する番だったが、もともと精神的に不安定だった彼は、制作中に重度の精神障害に陥り『スマイル』は完成されなかった。完成されなかったにもかかわらずジャケットまで出来ていたため、史上最も有名な未完成作品となり、同時に最も有名な海賊版となってその断片が流通した。

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コメント

  1. ゴロー より:

    たぶんそのときわたしはそこで働いていた
    グローイング・アップってちゃんと見たことないですけど、ビーチボーイズなんか使ってるわけですか(笑)。よく許可が下りるもんですねえ。

    銀河は今でもあるのかな?その節はお世話になりました…。

  2. r-blues より:

    嗚呼、グローイング・アップ
    Beach Boys、中学生の頃好きでした。
    何で知ったのか…多分、あのエロ青春イスラエル映画でしょうか?Surfin USA,Surfer Girl,Good Vibrations…
    いつもは自転車で行く「トヨタ中央」へ、今回はデートだからわざわざ電車で土橋下車して二人で歩きました。いやん懐かしいです。(銀河は距離じゃなく遠すぎましたっっっ無理!)

    だから、BeachBoys、来日したらば、浜松なら遠いから無理ですが蒲郡くらいなら都合が合えば是非行きたいです。
    それくらい好きです。