スラッシュメタルの頂点に立った傑作、メタリカ『メタル・マスター』(1986)【食わず嫌いロック】#31

メタル・マスター(リマスター)(SHM-CD)

Metallica
“Master Of Puppets” (1986)

1980年代までは、ロックとヘヴィメタルの間には厳然たる壁のようなものがあって、リスナーは互いを行き来したり、にっこり笑って握手したりは決してしないイメージがあった。もちろん、わたしはヘヴィメタルの結界の向こうには足を踏み入れようともしなかった。メタルはメタルな人たちだけが聴くもので、自分には関係のないことでござんすとわたしは一切の興味を惹かれることなく生きてきたのだった。

しかし1991年に発表されたメタリカの5thアルバム『メタリカ(通称ブラック・アルバム)』によってその壁に風穴が開けられた。
わたしも御多分に洩れず、そのブラック・アルバムで初めてメタリカに触れ、その峻厳な世界に圧倒され、彼らに対する認識を改めたものだった。

その後も彼らのドキュメンタリー映画に感動したり、彼らの音楽性の変遷を興味深く追い、ファンと言えるほどまで近寄れてはいないものの、少し離れたところから憧れの人でも眺めるように、その技術の凄さや志の高さ、甘さのかけらもないハードな切れ味、われわれの脳天をぶち割るような世界一ヘヴィで激しい攻撃力を、密かにリスペクトしていたものだ。

しかしブラック・アルバム以前の、80年代のメタリカは実は今回まで聴いたことがなかった。80年代のメタリカこそ、ゴリッゴリのメタルファンが愛してやまない、バッキバキのスラッシュメタルだということを知っていたからだ。

今回はそんなメタリカ初期の代表作であり、現在でも彼らの最高傑作に挙げられることの多い3rdアルバム『メタル・マスター』(1986)を聴いてみた。

予想通り、わたしが若い頃から、できるだけ出会わないようにと避けるようにして生きてきた、恐怖のスラッシュメタルだ。

ただし、思ってたのと少し違ったのは、猛烈な速さの2ビートの曲ばかりではないし、アコギで始まったり、スローな部分や美しいメロディを聴かせる部分もあったり、壮大なスケールのドラマチックな曲や、妙に惹き込まれるインストナンバーなどがあったりしたことだ。わたしが想像していた、時速120kmで激走しながら機関砲を連射する重戦車みたいなものではないのだな、と思った。

超弩級のエネルギーを放射して、耳をつんざく激しいサウンドでありながら、極めてストイックな音楽でもある。チャラついたところがまったくない。女にモテたくてバンドを組みました、みたいな感じもまったくない(いや知らんけど)。

もしも自分の子供がヘヴィメタルが好きだと知ったら、一瞬「げっ」と思うものの、それがメタリカだということであれば、ああやっぱりうちの子は賢くて真面目な子だなと称賛し、誕生日にはコンサートのチケットをプレゼントしたりするのだろうと思う。

スラッシュメタルは、たしかに自分が聴く種類の音楽ではないなと思うものの、なぜかメタリカに関してだけは、驚嘆と畏敬の念と共に、彼らの進むその先をもっと知りたいという不思議な感情が湧き上がるのである。

(Goro)

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