圧倒的にラウドで猛烈に野蛮なのに音楽的。モーターヘッド『オーヴァーキル』(1979)【食わず嫌いロック】#19

Overkill [12 inch Analog]

Motörhead
Overkill (1979)

1979年に発表されたモーターヘッドの2ndアルバム『オーヴァーキル』を聴いてみた。

これは凄い。
モーターヘッドはいいぞと聞いていたが、わたしの期待を、数倍上回った。
これは、恐るべき傑作である。

圧倒的なパワーとエネルギーの放電、猛烈に野蛮でありながらしかし鋭い知性も感じさせる、気高きロックンロールの極北だ。

わたしは、ハードコア・パンクやスラッシュ・メタルみたいなものを一度も良いと思ったことがない。速さと音圧だけで、音楽的ではないからだ。なのに、それらの元祖と思われるこの猛烈なスピードの「オーヴァーキル」は速さと音圧だけではない。余裕で音楽的であり、一度聴いただけで耳にこびりついて離れない、ある意味キャッチーな要素すらある。

不思議すぎて、何度も聴いてしまった。暴力的なビートと野獣のような絶叫と耳に突き刺さるノイズの塊を、なぜこれほど音楽的に感じるのか。まるで爆心地のような轟音の嵐が、なぜこれほどクールなのか。

本作のプロデューサーはなんと、あのジミー・ミラーだ。

ジミー・ミラーと言えば、ローリング・ストーンズの黄金時代を築き上げた名プロデューサーだ。まさかこの名前に、こんな形で再会するとは、と思わず感激したほどだった。

ジミー・ミラーはストーンズとの6作目の共同作業となるはずだった1974年のアルバム『イッツ・オンリー・ロックンロール』の途中でプロデューサーを降板している。原因はミラーのドラッグ依存による体調の悪化だったと聞く。それから5年ものあいだ、プロデュース業から離れていたが、その彼の復帰作が本作だということだった。

これだけの轟音ロックなのに決してうるさく感じないのは、音の分離が良く、音場に広がりを持たせているからだろう。これもジミー・ミラーの手腕に違いない。素晴らしい仕事で復帰したものだ。わたしはそこにも感動してしまった。

2曲目以降はそこまで速いテンポのものはない。メロディアスなものすらある。しかしそのどれもが圧倒的にラウドで、刺激的で、興奮のルツボである。
マシンガンをぶっ放すような強靭なリズム隊、おそろしくハードにエッジが立ったギター。その爆音に負けじと叫び、吐き捨てるように歌う極悪系ヴォーカルは、カッコ良さだけでなく、どこか渋い味わいがあるのが魅力的である。

「Overkill」「Stay Clean」「I’ll Be Your Sister」「No Class」などなどお気に入りの曲をあげればキリがないが、とにかく楽曲が充実している。

現在までの〈食わず嫌いロック〉の中ではもちろん最高作だし、わたしがこれまで聴いてきたすべのロックアルバムの中でも最上位のクラスに分類できる名盤である。

(Goro)