ツイン・ドラムの独創的なビートで世界を席巻した、アダム&ジ・アンツ『アダムの王国』(1980)【食わず嫌いロック】#29

Kings of the Wild Frontier [12 inch Analog]

Adam and The Ants
“King of The Wild Frontier” (1980)

アダム・アンド・ジ・アンツの名前をよく聞いたのはわたしが中二の頃だった。
海賊風のヴィジュアルもインパクトがあって、当時何よりもカッコいい言葉に思えた「ニュー・ウェイヴ」のまさに先頭を行くアーティストという認識だった。当時のわたしの神だった、あの沢田研二までが影響を受けていた。

しかしそうは言っても我が家にはレコードプレーヤーがなく、聴いてみたいと思っても偶然ラジオで流れるのを気長に待つぐらいしか手段がないのだ。

その後大人になって、少ない給料から食費よりも多くCDにお金をつぎ込むようになったものの、結局アダム・アンド・ジ・アンツは買わずじまいだった。その頃はすでに過去の人だったのもあるけれども、アダム・アントのマネージャーがあの悪名高きマルコム・マクラレンだったということを知った途端に、胡散臭く思えてきてしまったからだ。

セックス・ピストルズの好きな人なら、マルコム・マクラレンの名前を聞いただけでちょっと手を出すのをためらう気持ちはわかってくれるだろう。その上あの海賊ファッションやメイクも、ヴィヴィアン・ウエストウッドのプロデュースだったと知れば、さらに作られたアイドル感が増す。

しかし今回、少し調べてわかったが、アダム・アントは1stアルバムを発表したもののパッとせず、マルコムに3人のバンドメンバーをごっそり引き抜かれてしまった被害者だったのだ。マルコムはその引き抜いたメンバーでバウ・ワウ・ワウというまたしても胡散臭いバンドを結成した。

アダムは新たに、ギターとベースにドラムが二人という変則的なバンドで独創的なビートを編み出し、世に放ったのがこの2nd『アダムの王国』だった。

アルバムは10週連続全英1位と大ヒットし、この80年から81年にかけてシングルヒットを連発した。

今回やっとのことで本作を通して聴いたが、全英2位のヒットとなったシングル、”Antmusic”を憶えていることに気づいた。当時たぶんラジオで1〜2回聴いただけのはずだが、ちゃんと憶えているものである。中学生という脳みそが高野豆腐みたいに吸収力があった時期のせいもあるが、やはり当時の画期的な新しさのインパクトは相当なものだったのだろう。

アルバムは正直、期待を上回るカッコ良さと面白さだった。

あのマイケル・ジャクソンがアダムに直接「あのドラムはどうやって録音してるんだ?」と尋ねたというエピソードもあるほど、ちょっと他では聴いたことのないような打楽器の音の作り方と様々なパターンのプリミティヴかつクールなビートが面白いし、それを実験や破壊といった方向ではなく、キャッチーで新鮮なポップソングに昇華しているのがまた凄い。ヒット曲だけでなく、どの曲もそれぞれ個性的で面白い、楽しめるアルバムだ。今聴いても新鮮に聴こえる。

時代の徒花と笑う人もいるだろうが、本作が唯一無比の独創的な作品であることは間違いないだろう。

(Goro)