井上陽水/氷の世界(1973)

氷の世界

【ニッポンの名曲】#12
作詞・作曲:井上陽水 編曲:星勝、ニック・ハリソン

初めてこの曲を聴いたとき、井上陽水という人はうっすら気が狂っているのかと思った。
その後、彼の音楽をもっとよく知ってからは、狂人ではなく天才だったのだということがわかった。


歯科医院の息子として生まれた井上陽水は、中学生のときにビートルズを聴いて熱狂的なファンになった。
家業を継ぐつもりで歯科大学を受験するものの三度失敗してあきらめ、ラジオ番組に自作曲のテープを送って採用されたのをきっかけに、東京に出て、ホリプロに所属する。

デビュー時の芸名はアンドレ・カンドレだった。
デビュー曲のタイトルは「カンドレ・マンドレ」だった。

アンドレ・カンドレ名義でCBSソニーから3枚シングルを出すが、どうやら売れなかったようだ。
1972年にポリドールに移籍し、井上陽水として、シングル「人生が二度あれば」で再デビューする。


「傘がない」などを収録した1stアルバム『断絶』が注目を浴び、翌1973年にはシングル「夢の中へ」「心もよう」がたて続けに大ヒットする。
この曲はその大ブレイクを果たした1973年を締めくくるように、年末に発売されたアルバム『氷の世界』のタイトル曲だ。

このアルバムはロンドンで録音された。
それまでのフォークのアルバムとは音質からして違う。アレンジもとにかく完成度が高い。

このアルバムは、日本のレコード史上初めて、100万枚を突破したアルバムとして知られる。2年をかけて140万枚を売り、当時の最高売り上げ記録となった。


内容的にもセールス的にも日本のロックの金字塔となった名盤『氷の世界』から、ここではそのタイトル曲を選んだ。
日本のロック黎明期に、最初に完成を見た「ニッポンのロック」のひとつだと思う。
この曲が井上陽水の最高傑作だとわたしも思っている。多くの人がそう思っているように。

歌詞にはたぶん、筋の通った意味はないのだろう。
しかし個々のフレーズには、ふだんは隠蔽されている恐るべき真実をアイスピックでグサリと突き通したようなそんなインパクトがある。

人を傷つけたいな
だれか傷つけたいな
だけどできない理由は
やっぱりただ自分が怖いだけなんだな

その優しさをひそかに
胸に抱いてる人は
いつかノーベル賞でも
もらうつもりで頑張ってるんじゃないのか

(氷の世界/作詞・作曲:井上陽水)

狂ってないからよけい怖いし、隠蔽の下からにょろっとしたリアルなはらわたみたいなものが出てきたような感じだ。

とにかく異様な歌詞ではあるが、これほどオリジナリティにあふれた、カッコいい「ニッポンのロック」も滅多にない。

この動画の、ヴォーカリストとしての凄さ、そしてスピード感溢れる演奏にシビれる。

記事を書いた人(Goro)

愛知県在住。中学卒業後、無知蒙昧のまま社会にさ迷い出て、底辺職を転々した後、地元の映画館に拾われる。映画館に10年勤めた後、レンタルビデオチェーンのバイヤーを20年勤め、現在は再び底辺職で肉体労働の日々に返り咲く。心に平安が訪れている。生活に不満はなし。音楽にはいろいろと救われている。「映画は映画館で観なきゃダメ派」ではない。

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