はじめてのエルヴィス・プレスリー 名曲10選 10 Elvis Presley Songs to Listen to First

First Recordings

地球が最も賑やかだった時代、20世紀に世界中の若者たちを熱狂させたカルチャー「ロック」の扉を開き、ロックンロールのイメージを決定づけた、ロック史における最大のヒーローであり、シンボルである、エルヴィス・プレスリー。

彼の音楽には、異性へのロマンティックな思いもあれば、止められない欲動や暴力的な衝動も見え隠れし、既存の価値観への抵抗と新たな価値観の創造に満ち溢れていた。

ロックンロールは黒人のブルースと白人のカントリーの融合から生まれた。
エルヴィスがいなくてもこの音楽は生まれていたかもしれないけれど、しかし彼がシンボルであったからこそロックンロールは、いつの時代にも若者の胸を熱くする、華やかなエンターテインメントと底なしの闇の両面をあわせ持った、真にリアリティのある音楽として育ったのだと思う。

ここでは、そんなエルヴィス・プレスリーを初めて聴く人のために、最初に聴くべき10曲の名曲を選んでみたいと思います。(※発売順。順位ではありません)

#1 ザッツ・オールライト(1954)
That’s Alright (Mama)

Elvis at Sun

テネシー州メンフィスのサン・レコードのオーナー、サム・フィリップスは「黒人みたいに歌える白人を見つければ億万長者になれる」と信じて疑わなかった。
そして1954年7月、ついにそれを見つけたのが、エルヴィス・プレスリーだった。

スタジオに呼ばれたエルヴィスが、遊び半分で弾いていた「なんだかよくわからない曲」をサム・フィリップスが録音したのが、この「ザッツ・オールライト」で、そのままデビュー・シングルとなった。

シンプルなブルースをアコギをかき鳴らしながら歌っただけだが、決してだれにも真似できない、世界中を魅了したのも当然の、天衣無縫の歌声が素晴らしい。
わたしも初めて聴いたときは度肝を抜かれた。それ以来、エルヴィスではこの曲が一番好きだ。

#2 ブルー・スウェード・シューズ(1956)
blue suede shoes

エルヴィス・プレスリー登場!(期間生産限定盤)

エルヴィスの聖なるファースト・アルバムの一発目を飾る曲だ。

当時、ロックンロールなんて聴いたこともなかった若者たちが、レコードに針を落とした瞬間にこれが流れてきたら、そのまま失神してもまったく不思議ではない。わたしなら失神していただろう。

ロックンロールというものは、ただ譜面通りに歌っても絶対にロックンロールにはならないのだよ、ということをエルヴィスが最高の手本を見せて教えてくれているようだ。

今にも若き血潮が爆発しそうな、つんのめるような焦燥感が神々しい。

#3 ハート・ブレイク・ホテル(1956)
Heatrbreak Hotel

Elvis Golden Records
サン・レコードから数枚のシングルを出したのち、RCAに移籍したエルヴィスは1956年1月にこの曲を録音した。
今で言えばメジャー・デビュー第1弾シングルとして発売され、そしていきなり全米1位となった。
そしてその瞬間から、地球上のいたるところで若者たちが熱狂するロックンロールのお祭り騒ぎが始まったのだ。まさに、世界を変えた1曲と言えるだろう。

シンプルな小編成のバンドと、まだ少年のようなか弱さを残しているような声で情感たっぷりに歌われるこの哀し気な音楽に、シブっ、とわたしは思わず唸らされた。

チャック・ベリーのような明るいロックンロールじゃなくてこんな暗い歌をデビュー・シングルに選んだエルヴィスもまた凄いなあと思う。
ただのエンテーテインメントやヒットソングだけじゃない、なにか切実なものを追い求めていたに違いない。

#4 アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ・ラブ・ユー(1956)
I Want You, I Need You, I Love You

Elvis Golden Records

RCAレコードに移籍していきなり「ハートブレイク・ホテル」で全米1位を獲得し、エルヴィスの時代の幕が開けた。この曲はその次のシングルとして発表されたものだ。

わたしはこの曲が昔から、エルヴィスのバラードの中でも特に好きだ。
当時21歳のエルヴィスの、少年のようなあどけない高い声と、早熟の男性のようなセクシーな低い声が一曲の中でかわるがわる出てくるのが他のヴォーカリストでは味わえない魅力である。これはもう女性なら、体のあちこちが発熱してもおかしくないだろう。

わたしは男色に興味はないが、このPVなどを見ていると、「まあ、この男にだったら…」と思えてくるから不思議なものである。ロックンロールの誘惑というのはそうことなのかもしれないし、ちがうかもしれない。
この曲ももちろん全米1位となった。

#5 冷たくしないで(1956)
Don’t Be Cruel

Elvis Golden Records

「アイ・ウォント・ユー~」に続くメジャー3枚目のシングルは、エルヴィスのヒット曲を数多く書いた天才ソングライター、クリス・ブラックウェルの作。
インパクトは強くないかもしれないが、主張し過ぎず、やり過ぎず、親しみやすく、可愛らしく、耳に残る名品だ。リラックマぐらい、シンプルなのに可愛い、いかにも天才の作だと思う。

もちろん全米1位の大ヒット。
32年後にはチープ・トリックがカバーして全米4位の大ヒットとなる。シンプルだからこそ、時代を超えて親しまれる曲だ。

#6 ハウンド・ドッグ(1956)
Hound Dog

Elvis Golden Records

「冷たくしないで」と両A面というシングルで発表され、こちらも大ヒット。全米1位を獲得した。

オリジナルは女性ブルース歌手ビッグ・ママ・ソーントンの52年の録音で、こちらもド迫力のブルース・ナンバー。

エルヴィスが気に入ってよく歌っていたそうだが、ワイルドなロックンローラーのエルヴィスのイメージをつくった代表曲のひとつと言えるだろう。

#7 ラヴ・ミー・テンダー(1956)
Love Me Tender

Elvis Golden Records

この曲は1861年、南北戦争時代に書かれた曲を元に、エルヴィスが改作したものだ。

エルヴィスが主演した南北戦争直後の時代を舞台にした『やさしく愛して』という映画の挿入歌として発表された。この曲もまた全米1位となり、誰もが知るエルヴィスのバラードの代表曲となった。

当時の他のロックンローラーたちと比べるとエルヴィスは、スピード感溢れるワイルドなロックンロールから、ロマンティックなバラードまでかなり幅広く歌っている。
彼によって拡げられたこの幅の広さが、後に続くロック・ミュージックの幅の広さへと繋がっていったように、わたしは思う。

#8 監獄ロック(1957)
Jailhouse Rock

Elvis Golden Records

この曲のイントロのインパクトは凄い。わたしはこのイントロを聴くと、背筋がシャンとする気分になるのだ。

この曲ももちろん多くのアーティストがカバーしているけど、どれを聴いてもこのイントロのフレーズの、絶妙なタイミングの感じに違和感があって、わたしはぐぬぬぬぬぬぬと歯がゆく感じてしまうのだ。

この曲を演奏しているメンバーの顔も名前も、エルヴィス以外はわたしはまったく知らないけどれも、こういう人たちこそがロックンロールを創造した真の立役者としてリスペクトされるべきなのだろう。

#9 好きにならずにいられない(1961)
Can’t Help Falling In Love

Blue Hawaii (Original Soundtrack Album) [Analog]

エルヴィスの主演映画『ブルー・ハワイ』の挿入歌。全米2位の大ヒットとなった。

現在でも、店内有線などで日常的に耳にする、誰もが聴き覚えのあるメロディだろう。たぶん、エルヴィスの曲で一般的にいちばん知られているメロディではないか。タイトルまではきっと知らないだろうけど。

エルヴィスの声にピッタリの、ロマンティックなバラードの名曲。

#10 サスピシャス・マインド(1969)
Suspicious Minds

40 Greatest

“Suspicious Minds”とは、疑い深い心、疑心暗鬼、不信感、みたいな意味だそうだ。

この曲はシンガー・ソングライターのマーク・ジェイムスという人が書いて68年にシングルとしてリリースした曲で、翌年にエルヴィスがカバーして大ヒットした。
エルヴィスとしては7年ぶりの全米1位、そして最後の1位となった。

わたしはやっぱりこの人の、色気の塊みたいな声が無性に好きだ。なにを歌っても名曲に聴こえてしまう。

エルヴィスのアルバムを最初に聴くなら『MEGA ELVIS』あるいは『エッセンシャル』というベスト盤がお薦めだ。
どちらも、デビュー・シングル「ザッツ・オールライト」から始まり、RCAに移籍してからの怒涛の大ヒット曲連発、そしてキャリア後期の代表曲まで、過不足なく収められている。

The Essential Elvis Presley

やはり真に「キング・オブ・ロックンロール」の称号がふさわしいのは、エルヴィスなのだ。
すべては彼がリーゼントをキメて、ステージで腰をふり、脚をガクガクさせて女性ファンの胸をときめかせ、股間を熱くさせたことから始まったのである。

彼がいなければ、ロックンロールのスタイルと影響力はまた違ったものになっていただろう。
ロックンロールがもっと違うものになっていたら、この世界もまた違うものになっていただろう。
たぶん、もっと堅苦しくて、もっと冗談が通じなくて、もっと個性に乏しくて、もっと男女がよそよそしくて、もっと自分の気持ちを押し殺して生きていかなければならない、そんな退屈な世界になっていたのではないかと想像する。

この世にエルヴィス・プレスリーという人が生まれ、彼がギターと出会い、「母親にプレゼントするために、ちょっとレコードでも作るか」と考えてメンフィスのサン・レコードを訪ねたという運命が、小説や映画の中のお話ではなく、この世に現実に起こった奇跡であることに、どれだけ感謝しても、バンザイしても、し足りない。彼を選んだロックの神様に、わたしはいちばん大きい声で「Good Job!」と伝えたいものだ。

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