中島みゆき/ファイト!(1983)【ニッポンの名曲】

予感【リマスター(HQCD)】

【ニッポンの名曲】#57
作詞・作曲:中島みゆき 編曲:瀬尾一三

ニッポンの歌謡史において、史上最高の女性シンガー・ソングライターを挙げろと言われたら、わたしは1秒も迷わず、中島みゆきを挙げる。

もちろん、松任谷由実や竹内まりや、広瀬香美やaikoなども素晴らしいと思うけれど、わたしは中島みゆきがダントツで1番スゲーと思っている。

彼女の楽曲の、深い思索と豊かな感情は比類なく、その多様な楽曲を歌い分ける七色の声も持つ、誰にも真似できない、唯一無比の歌姫である。

この「ファイト!」はもともと1983年のアルバム『予感』に収録されていた曲だが、1994年に住友生命のCMに使用されたことから、広く注目されることになった。
同時期に放送されたTVドラマ『家なき子』の主題歌「空と君とのあいだに」と併せて両A面シングルとして発売され、オリコンチャート1位を獲得した。(下に続く)

とにかくグッとくる歌なのだ。

このCMの映像も、どこにでもいる風貌のサラリーマンのどこにでもある日常の映像なのに、なぜかグッときてしまうから、話題になったのだろう。たぶんだけど、どんな映像でも、人間さえ映っていてこの曲が流れればグッとくるのではないかと思う。

中島みゆきには恋愛の歌や、女性の心理を描いた歌以外にも、市井の平凡な暮らしをしている人々や、社会の下層で不自由で苦しい日々を送る人々を見つめる温かい眼差しの歌が数多くある。
「地上の星」や「瞬きもせず」、そして「糸」などが有名だけれど、そんな楽曲群の原点とも言えるのが「ファイト!」だろう。

「あたし中卒やからね 仕事をもらわれへんのや」
と書いた女の子の手紙の文字は尖りながら震えている

ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
悔しさを握りしめすぎた 拳の中 爪が突き刺さる

わたし本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
転がり落ちた子供と 突き飛ばした女の薄笑い

わたし驚いてしまって 助けもせず 叫びもしなかった
ただ怖くて逃げました わたしの敵はわたしです

(ファイト!/作詞・作曲:中島みゆき)

ビッグアーティストがよくやりがちな、弱者に向けた上から目線の生温かいヒューマニズムとは違う、深い共感とリスペクトの強い想いを、中島みゆきの歌からは感じる。

この曲もまた、この社会の片隅で、人知れず苦しい闘いを強いられ、人生に迷い続けたまま、あきらめかけている名も無き人々に深いリスペクトと共に、エールを送る歌だ。

魂が震えるようなパワーを持った凄い歌だ。こんな歌が書ける中島みゆきは凄い。

2013年にはまた、カロリーメイトのCMにも使用された。
これは満島ひかりが歌ったものだが、これもまた思わず見入ってしまうほどグッとくるCMだった。時代を超えて、人々の心に突き刺さる、凄い力を持った名曲だ。

↓ 中島みゆきのオリジナル。

※本記事は、2019年11月に公開した記事に加筆・修正したものです。

(Goro)

コメント

  1. https://note.com/konnichiwa2000/ より:

    goroさんこんにちわ、konnichiwa2000です。家の事情がのっぴきならなくなってきて、暇さえあればこちらを徘徊しております。昨日は一番最初のエントリを探してみようとして、ニッポンの名曲経由でここにたどりつきました。

    岡林、泉谷、友部正人、陽水など大好きなのですが、この曲には度肝を抜かれました。恥ずかしながら私は、能天気な応援歌だと思ってました(アザミ嬢のララバイとか大好きなのに)。フルで聴いて泣いて、満島ひかりさんのフルバージョンでもまた号泣。。goroさんのおかげで、とても大切な曲と出会えました。ありがとうございます涙

    • Goro より:

      konnichiwa2000さん、いつもありがとうございます。

      「ファイト」を聴いて号泣するということは、konnichiwa2000さんもまた、日々を必死で闘っておられるのですね。頭が下がる思いです。

      この曲は中島みゆきが深夜ラジオをやっていた時に、困難な日常と闘いながらも必死で生きているリスナーたちからの投稿に心を動かされて書いたと聞いています。
      薄っぺらな応援歌ではなく、その歌詞からは、彼らと同じ目線に立って、人知れず闘い、必死で生きている名もなき人々たちを心からリスペクトしていることが伝わってきます。

      この記事は4年前に書いたものですが、当時は解禁されていなかった公式の「ファイト」のYoutube音声動画が公開されていましたので、修正し、再度公開しました。

      中島みゆきの、名もなき人々への深い共感とリスペクトが同様に感じられる曲に「瞬きもせず」があります。これも「ファイト」と並んで、わたしの好きな曲です。興味がありましたら聴いてみてください。