傍若無人な爆音ブルース 〜ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン『オレンジ』(1994)【最強ロック名盤500】#46

Orange

⭐️⭐️⭐️

【最強ロック名盤500】#46
The Jon Spencer Blues Explosion

“Orange” (1994)

80年代末頃、ジョン・スペンサー率いるプッシー・ガロアというバンドが、ニューヨークの地下ロックシーンで「ジャンク・ロック」と呼ばれる前衛かゴミかわからないようなことをやっている、というのは当時のわたしも知識としては知っていたが、聴いたことはなかった。わたしは前衛もゴミも、どっちもそれほど興味がないからである。

そのジョンスペが、90年代半ば頃になぜか日本で売れていると知ったときは「マジか!」と仰天したものである。

それが、彼がニューヨークで結成したバンド、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンが1994年10月にリリースした本作だった。翌年には初来日も果たすという過熱ぶりだった。

なぜ彼らが売れたのかは謎だった。

ブルース・エクスプロージョン(ブルースの爆発)というバンド名も意外な気がした。
オルタナ・ブームで若者はブルースなど誰も見向きもしない時代だったのに、よりによってオルタナ中のオルタナみたいなジョンスペがブルースとは。
いや、きっと爆発はしているだろうけれどもブルースなんてカケラもやってないに違いない、悪ふざけに決まっている、と思っていた。

しかし聴いてみて、意外にまともなことに驚いた。
低音域をブーストしたギター、リードギター、ドラムというギリギリロックバンドができるかどうかみたいな編成で、ガリッとした質感の爆音と、意外にもブルース的な土臭さいフレーズがそこかしこに香る、生々しさと破壊力に満ちた、オリジナリティ溢れるロックだった。

天真爛漫で変態的な要素もあれば、ストリングスなども使ったスタイリッシュなアレンジもあり、緊張感のあるタイトな演奏がまた意外な感じだった。
似ているわけではないのだが、なんとなく、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのトリオの感じを思い出した。

正統派のブルースとはもちろん言えないにしろ、あの時代、ブルースと言えばオシャレなスーツを着たセレブが演奏し、ブルースと聞いただけで全肯定する大人ロックリスナーがうっとりと聴くという、まるでイージーリスニングにみたいにブルースが聴かれたた時代に、ブルース本来の耳障りな野生味や塩辛さや傍若無人さを生き返らせたという意味ではそのバンド名もあながち間違ってはいないなあと思ったものだった。

ちなみにジョン・スペの愛用している見慣れないボロボロギターは、日本のフジゲンという楽器製造メーカーが1960年代に製作・販売したものらしい。その音色が気に入って使っているそうだ。

ちなみに、プッシー・ガロアは1986年に、ストーンズの『メイン・ストリートのならず者』を全曲カバーするという悪ふざけとしか思えないアルバムを出していて、最近それを初めて聴いてみたものの、案の定、ゴミ中のゴミだった。

↓ シングルカットもされた代表曲「ベルボトムズ」。

(Goro)