No.200 ディクシー・チックス/ザ・ロング・ウェイ・アラウンド (2006)

TAKING THE LONG WAY
≪オールタイム・グレイテスト・ソング 500≫ その200
Dixie Chicks – The Long Way Around

ディクシー・チックスの復活劇は実にドラマチックだった。

そのときまでディクシー・チックスは、98年と2000年に発表した2枚のアルバムが連続して1,000万枚以上を売り上げるなど、史上最高のレコードセールスを記録した女性グループとして成功を収め、人気を不動のものとしていた。

そして事の発端は2003年のロンドンでのライヴだった。
MCでナタリーが、イラク侵攻を準備しているジョージ・W・ブッシュを同じテキサス出身として恥ずかしく思う、と発言したことが報道されたことに始まる。

われわれ日本人から見るとそれだけ? と思うぐらいのことだけど、彼女たちは本国でとてつもなく激しいバッシングにあうことになった。

「彼女はアメリカの頂点にいる人物に敬意が足りないし、しかも海外で批判すべきではない」
「今から戦争しようってときに大統領の悪口を言うとは非国民だ」
「カントリーミュージックを好む保守層の聴衆に気を配るべきで、彼女は政治的な立場を表明すべきでなかった」

日本人にはちょっと信じられないような過激な反応だ。
ナタリーは公式に謝罪文を発表させられるハメになったが、それでも事態は収束しなかった。

全米1200のラジオ局を傘下に持つクリアチャンネルグループは、こう表明した。
「我々の街とリスナー、そしてアメリカ軍兵士へ敬意を示すため、ディクシー・チックスをプレイリストから外しました」

同様に、多くのカントリー・ラジオ局のプレイリストからも外されることになり、ラジオ局の前には「ディクシー・チックスCD廃棄箱」も設置された。
さらにルイジアナ州のカントリーラジオ局KRMDでは「ディクシー・チックス廃棄デー」を開催し、”元”ファンから集めたCDなどをトラクターで潰したあと、集まった人たちが踏みつけた。
コロラド州のラジオ局のDJの2人は、ディクシー・チックスの曲をかけようとして停職となった。
アメリカ赤十字はディクシー・チックスからの100万ドルの寄付を断った。

それから3年後、彼女たちは、ジョニー・キャッシュのアメリカン・レコーディングス・シリーズや、メタリカやレッチリのプロデューサーでもあるリック・ルービンをプロデューサーに迎え、アルバム『テイキング・ア・ロング・ウェイ』を発表した。
シンプルで、キャッチーで、力強いアルバムだ。
わたしがその年最も繰り返し聴いた曲が、このアルバムの冒頭を飾る。この「ザ・ロング・ウェイ・アラウンド」である。

保守層のしつこい批判にさらされ、ラジオのエアプレイも最小限でありながら、このアルバムはポップチャートでもカントリーチャートでもNo.1となった。
さらにその年のグラミー賞では、最優秀アルバム賞、最優秀シングル賞、最優秀カントリーアルバム賞など5冠に輝き、主要な賞を独占してしまった。
3年にわたる彼女たちの戦いに、けりがついたのである。

もう10年も前の話だ。
あのときのことを思うと、今はどうだろう。
国民も、マドンナやレディー・ガガをはじめ大勢のアーティストが、堂々とトランプ大統領を批判している。
その内容の賛否はともかくとしても、ずいぶんと民主的で、自由にものが言える国になったんじゃないだろうか。

よかった、よかった。