80年代ハード・ロックの扉を開いた画期的名盤、ヴァン・ヘイレン『炎の導火線』(1978)【食わず嫌いロック】#17

炎の導火線

Van Halen
Van Halen (1978)

ヴァン・ヘイレンが1978年2月にリリースした1stアルバム『炎の導火線』だ。

中学3年の夏休みが終わりに近づいた頃だったと思う。このアルバムをわたしに聴かせたのは同じクラスの馬鹿な同級生だった。周囲はすでに高校入試に向けて受験勉強の真っ只中というのに、早々と進学をあきらめた馬鹿二人、つまりそいつとわたしは自然とつるむようになっていた。

彼はちょうどヘヴィメタルを知ったばかりで、それに夢中になっていた。なんだか気味の悪いジャケットのレコードを買い揃えて、わたしに見せびらかした。わたしはそんな趣味の悪い馬鹿とは遊びたくないと思っていたが、他に誰も遊ぶ相手がいないので、仕方なく彼の家に行き、彼の薦めるヘヴィメタルのレコードを一緒に聴いた。世界に馬鹿が二人残されても、やはりなんら有意義な活動は生まれないものだ。

家にレコードプレーヤーが無いわたしのために彼はカセットテープにダビングしてくれたりもした。彼が特に気に入ってたアイアン・メイデンやその他いろいろ、その中にこのヴァン・ヘイレンの1stも含まれていた。

暇なわたしはもらったカセットテープをいろいろ聴いてみたが、どれもあまり好きにはなれなかった。騒々しいし、速すぎるし、まったくもって馬鹿が聴く音楽だと思った。まだ洋楽もそれほど聴いたことがないのに、いきなりヘヴィメタは厳しかったのだろう。でも1曲だけ、妙に印象に残った曲があった。

それが本作収録の2分に満たないギターのインスト「暗闇の爆撃 (Eruption)」だった。

まだジミ・ヘンドリックスもレッド・ツェッペリンも聴いたことのない頃のことだ。
こんなふうにギターを弾く人がいるということに純粋に驚いたのだと思う。彼からもらったそのカセットは、いつもその2曲目が終わったところで満足してテープを停めてしまった。もう1曲続けて聴けば「ユー・リアリー・ガット・ミー」まで聴けて、新しい世界が広がったかもしれないのに。

その後わたしは洋楽を聴くようになったが、その時の思い出のせいで、なんとなくハード・ロックやヘヴィメタルは馬鹿が聴くものと誤解したまま、その界隈を避けて生きてきてしまった。

何年も経ってから「悪魔のハイウェイ」や「ユー・リアリー・ガット・ミー」は聴く機会があったが、アルバム丸ごとをがっつり聴き直したことはなく、今回は40年ぶりぐらいに聴いてみた。

ハード・ロックなのに聴きやすいプロデュースが施された、キャッチーなアルバムだ。ヴォーカルも金切り声で叫ぶスタイルではなく、しっかりと歌を聴かせるし、コーラスもビートルズぐらいしっかりとハモリ、エコーで強調もされている。

そして何より、エドワード・ヴァン・ヘイレンという天才のギターは、確かにハード・ロック的な鋭利さは存分にあるものの、やたらと攻撃的というわけでもなければ重苦しさもなく、ただひたすら天真爛漫に、縦横無尽に、キラキラと明るく輝きながら、飛び跳ね、駆け回るのである。陽気に、笑いながら。

それまでのハード・ロックの、しかつめらしく、仰々しく、陰鬱でマニアックなイメージとは随分違う。

ちょうど前年のパンク革命で、一気に過去のものとなったハード・ロックが次々と店じまいを余儀なくされていく中であっけらかんと新店オープンし、それまでのハード・ロックの概念を変えるポップな新業態を提案して、より幅広い層に受け入れられたのがヴァン・ヘイレンだったと言えるだろう。

80年代ハード・ロックの扉を開いた、画期的な名盤である。

(Goro)